〇数日前、従弟の書いた文章をリンクして紹介した、今国会での「火事場泥棒法案」の種苗法も、検察庁法に続いて審議が見送られた。
問題点は、そのリンクに書いてある通りなのでご参照いただきたいが、私が一番問題であると考えるのは、種苗法第21条第2項に規定している農家が自ら作付けした種苗から得られた種をもう一度作付けする「自家増殖」を原則禁止にしたことだ。
これは、経済的な問題以上に、価値観の問題である。私がかつて経済産業省生物化学産業課でバイオ産業政策に携わっていた時に、国際班長としてさまざまな国際会議に出た経験がある。その時、いつも大問題となるのが、生物や遺伝子などに知的財産権を認めて経済の対象とするのことの是非、という極めて本質的な問題であった。
日本の得意な発酵産業など工業分野については、「菌やその遺伝子に関する知的財産権を強化せよ」ということを主張していたが、農業分野についてはその土地土地で農民が長い年月をかけて風土に合う農作物を改良しながら作ってきた歴史から、工業分野と同一には扱われてこなかった。
したがって特許とは異なり、種苗については植物の新品種の保護に関する国際条約(UPOV条約)で、農家の自家増殖については品種保護の例外とできることとされており、日本もそうした対応をとってきた。
さらに、日本は安倍政権下の2013年に、種子の保全や改良などの扱いが農民の権利であることを明示した食料・農業植物遺伝資源条約を批准しており、「農民の権利」を極小化してバイオメジャーの利益を保護しようとする米国などは、一線を画してきた。
今回の法改正は、そうした日本のこれまでの路線を転換するものである。果たして、与党内でそこまでの本質的な問題であると認識して法案の審査がなされたのか。
検察庁法に続いて、内閣提出の火事場泥棒法案の審議が取り下げられるのは、前代未聞のことだ。それは、与党の法案審査能力の低下もしくは形骸化が表れていることを意味する。そして、そのことはこの国の立法機能そのものが形骸化しているという民主制度の根本的な危機にあることを、認識しなければならない。