〇今日の読売新聞の文化面。「総括安倍政権」というタイトルの作家楊逸さんのインタビュー記事がいい。
【豊かなのに冷めていて、あきらめている・・・気になるのは、彼ら(日大芸術学部の学生)があまりに未来に希望を持っていないことです】
【この学生たちの冷めた雰囲気が、7年8か月続いた安倍政権下での社会のイメージと重なります】
【日本はまだ豊かだし、政治と向き合わずに冷めていることが許されるかもしれません・・・一方で、世界の状況を見渡せば、現実から逃げてばかりはいられません】
1964年に中国ハルビンで生まれた楊逸さんは、一族が文化大革命で迫害を受け、22歳の時に中国から逃げるように日本に渡り、日本語で書いた小説が芥川賞を受賞。2011年に日本に帰化した作家だ。今、香港などで起こっていることと日本での学生の雰囲気を比べて、率直な感想が語られている。
私がかつて学習院女子大大学院で講義をしていた時に、実家が上海で複数の幼稚園を経営している中国人留学生がいた。その彼女は、政府の政策を批判的に見る見方を教え、それを改める対案作りを実習する私の講義を受けて、「日本に来てみて学ぶことは少ないと感じたけど、先生の授講のようなものは中国では絶対に受けられないので、それだけで日本に留学した意味があった」とお世辞で言ってくれた。
幼児教育のマネージメントを学ぶという明確な意思を持って留学してきたその学生には、日本の学生たちはあまりにも問題意識を持って生活しているようには思えず、実習先で行った日本の学校を見ても「昔の中国の学校みたい」と日本の停滞感を余計に感じたようだった。日本の電車に乗ると、みんな寝ているかスマホをいじっていてシーンとしていて、「日本人はみんな疲れた人みたい」と言っていたその学生は、私の講義を受けていたすべての学生の中で一番早く就職が決まって、世界に飛び出していった。
高度成長期に学生運動が一番盛り上がっていたのは、おそらく偶然ではない。私は、高度成長による社会のひずみが学生を駆り立てたというよりは、若者たちの社会への有り余るエネルギーの放出がなされた時代だったからこそ、経済も成長したのだと考える。私の教え子の中国人留学生や、香港などで圧制にも負けず抵抗を続けている若者たちがいる彼の国は、さまざまな問題を抱えながらも若者たちのエネルギーを吸収して成長し続けるであろう。
中国のような一党独裁の圧政にない米国などの先進国でも、最近もしばしば若者たちの社会へのエネルギーの放出が起こる。そうした国々も、その若者たちのエネルギーを梃子にして成長し続けるであろう。若者が社会に冷め続けている国に、成長はない。それを、私のような中年世代の政治に携わる人間に焚きつけられるような若者ではいけないと思うが、しかし少なくとも冷めた若者の心に少しでも火をつけるような行動を、私たちの世代の政治家はしなければならない。私は、絶対にあきらめない。