〇今時、省ぐるみでこのような所管業界からの接待を受けているなんて、信じられない。
私が通産省に入った頃は、石油商から幹部官僚が過剰接待を受けて処分された泉井事件というものがあって、お隣の大蔵省や厚生省などでも汚職事件が相次いでいた。入省した時、「他人のカネでメシは食うな。他人のカネで女を侍らせるな」と先輩からはきつく言われた。
資源エネルギー庁公益事業部にいた時は、それでも時々業界から接待のお誘いがあったが、電力自由化で業界と対峙しなければならない立場から、あまり応じることはなかった。飲めば、そこで話したことは必ず翌日メモとなって業界を回るから、仕事の話はできず、酔うこともできなかった。「ゴルフをやりませんか」「レッスンも付けますよ」などとも誘われたが、休日も業界の人といるのは嫌なので、一切断った。だから、今でもゴルフはやる気にならない。
上司には、頻繁に料亭で接待を受けている人もいて、娘の卒業旅行にパリでミシュラン星付きのレストランに案内(電力会社の支払いで)することをおねだりする怪しからぬ輩もいた。そういう人は、電力会社の利益を代弁するような主張を省内でもしていた。その課長は、本人は「大物官僚」と自認していたが、その後省内のメインルートを歩むことはなく退官することとなった。
しかし、1999年に公務員倫理法ができてからは、過剰なくらい業界との飲食を伴う会合については注意するようになって、21世紀になってハイヤーで料亭に行くような接待は絶滅していたはずだ。
今回、リストに上がっている官僚は、すべて郵政省入省組だ。省庁再編で誕生した総務省は、自治省、郵政省、総務庁が合併してできた役所で、総務省になってからも採用や人事を別々に行うなどなかなか混じり合ってこなかった。特に自治省組は旧内務省の流れを引く本流との意識が強く、総務省内で大きな顔をしてきた。
こうした総務省の空気を察して、本流扱いされてこなかった郵政省組に目をかけ、そのことによって総務省内を統制しようとしたのが菅首相だったのだろう。ふるさと納税制度の問題点を指摘して左遷された平嶋氏など自治省組は、この間冷遇されてきた。
先週の『週刊文春』がすっぱ抜いた接待時の会話の音声データでは、総務省内や通信・放送族議員の人物評定の様子が記録されていた。これは私の想像だが、郵政組の総務官僚たちは菅首相の長男が同席する宴席で、省内の人事模様や政治家の評価を話すことでそれが菅総理に伝わり、人事上の影響が及ぼされることを期待していたのではないか。
「総理の長男が同席する接待は断れない」などと官僚側に同情的な意見もあるが、私は自社への利益を期待する東北新社と省内の出世レースでの配慮を求める官僚側の双方の思惑が合致して行われてきた接待でなかったのかと感じる。「総理と結びついている特別の場」というのぼせ上った思いでもなければ、7万もの金額の接待を今時受けるということは考えられない
こうしたことが起こる背景には、橋本行革以降の官邸機能の強化や政治主導の政権運営の流れの中で生じた、今の日本国政府内の歪な権力構造がある。そして、最近流行の「ブラック霞ヶ関」となる根幹も、ここにある。国会対応や野党ヒアリングは、本筋ではない。
この問題は、単なる官僚のスキャンダル追及ではない。「政府に入った政治家が行使すべき権力は何なのか?」「そうした権力を抑制したりチェックする仕組みはあるのか?」といった本質的な議論が国会で行われることを期待したい。