〇これら一連の報道に対して、脱原発派は反発し、原発推進派は歓迎しているが、役人が作成した岸田首相の発言をなぞってみると、やはり「検討使」で何も言っていないのに等しい。まさに、「万犬虚に吠える」という状況だ。
【原子力発電所については、再稼働済み10機の稼働確保に加え、設置許可済みの原発再稼働に向け、国が前面に立ってあらゆる対応を採ってまいります】
と言っているが、単に現在原子力規制委員会の規制の審査状況を示しているのにすぎず、「国が前面に立って」というのもこれまでの常套句だ。具体的に規制のあり方を見直すとか、各自治体が苦戦している避難計画の策定のために具体的な予算措置を講じるとか、そうしたことをするつもりはないだろう。今、国がやっていることに何か新たな政策が加わるわけではない。
【原子力についても、再稼働に向けた関係者の総力の結集、安全性の確保を大前提とした運転期間の延長など、既設原発の最大限の活用、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設など、今後の政治判断を必要とする項目が示されました・・・これらを将来にわたる選択肢として強化するための制度的な枠組、国民理解を更に深めるための関係者の尽力の在り方など、あらゆる方策について、年末に具体的な結論を出せるよう、与党や専門家の意見も踏まえ、検討を加速してください】
ここで言われている「制度的な枠組み」や「関係者の尽力の在り方」というものには注目したいが、単に脱炭素化や供給力を埋めるための数字合わせとして惰性で原子力を推進しても、これまでの失敗を繰り返すだけだろう。一部の偏った「専門家」が、「国策」とか「純国産エネルギー」とかお題目を唱えながら、結局精神論ばかりで進めてきたことが、日本の原子力政策の失敗の歴史だった。
官民のどの主体がどのような枠割分担と責任を負うのか、国際的な動向を見極めながら技術開発の方向性を誰がどのように決めていくのか、科学的で合理的な安全規制のあり方は何か、といった本質的な論点を議論して、原子力政策の再構築を行わなければならないが、そのようなことは年末までに結論を出すことなどはできないだろう。私は、結局何も出てこないと予測する。
政権が下り坂になってくると、官僚組織は内閣の退陣を睨んでそのような政権に国民に不人気な政策を押し付けてやらせようとする。私には、今回の岸田総理の発言は、そのようなものに思えてならない。