〇忙中閑あり。夕刻のちょっとできた時間を使って、歌舞伎座の猿若祭二月大歌舞伎の壇浦兜軍記「阿古屋」に一幕見席へ。
「阿古屋」は、源平の合戦で敗れた平家の武将悪七兵衛景清の愛人である遊女阿古屋を捕らえて、景清の居場所を吐かせるため、源氏方の有能な役人である秩父庄司重忠が拷問ではなく、琴、三味線、胡弓の演奏をさせて心の乱れを読むという筋書き。愛する景清を想いながら阿古屋が実際に琴、三味線、胡弓を弾くという、歌舞伎の演目で屈指の女形の難役とされるものです。
阿古屋を演ずるのは、もちろん坂東玉三郎。今生きている役者で、この難役を演ずることができるのは玉三郎だけではないでしょうか。実際に観てみると、役者でありながら琴、三味線の演奏自体が異常に巧い。もちろん玉三郎の立ち居振る舞いはそれだけで匂うような色気と気品が漂う演技ですが、音でもその切なさで心を動かすものがありました。
私の亡母は琴と三味線の師範で、幼いころから毎日琴と三味線の音色を聞きながら育ちました。玉三郎の美しい姿と研ぎ澄まされた音色を聞きながら、幼いころの幸せな日々を思い出して涙があふれてきました。歌舞伎座の一幕見席は、4階の一番遠い席ですが、よく見えてわずか1,500円。プライスレスの価値があります。日々の国会での乾いた仕事のいい養分となりました。