福島のぶゆきアーカイブ

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荒川隆さんの近著『食料安全保障と農政改革』

〇農林水産省で官房長などを務めた荒川隆さんの近著『食料安全保障と農政改革』を贈呈いただいた。日本農業新聞に連載しているコラム「農政岡目八目」をまとめたものだ。

 4月16日のコラムでは、政府備蓄米を放出してもちっとも小売り米価が下がらないという世間の騒ぎを受けて、「必要なのは、米国の脅しに屈して行き当たりばったりの対応をすることではなく、半世紀余り続いてきた減反政策を見直し、主食たる米が過不足なく安定供給できる体制をつくるための政策を信念を持って構築しその財源を確保することだ」としている。

 そして、「あることないこと大騒ぎしている識者のいい加減なアジ演説を聞くくらいなら、メディアもこのような客観的な発信を取り上げるべきだろう」として、「おコメの需給と価格に関するエビデンス」という政策研究大学院大学特任教授による分析を紹介している。さっそく客観的なデータを基にまじめな検証を行っているこの資料を取り寄せた。

 よく農水省の統計データが不正確で実際の供給量は足りていないのではないかと指摘する人が多いが、さまざまな統計数値を過去数年間比較した上で、「統計の方法に変更がないとすれば、仮に実収量が統計より上下の振れがあったとしても、それは令和5年産・6年産に固有のものとはいえず、現在の需給状況を説明する要因にはなりにくい」と結論づけている。その上で、「昨夏の経験、来夏への懸念をきっかけに、端境期まで売るおコメの確保を急ぐ卸売、小売、外食事業者の行動」が価格の高止まりを生んでいるのではないか、と仮説を立てている。そして、「在庫の相当部分は、現在所在が把握されていない主体に相当量存在する可能性がある」としている。

 おそらく、そういうことなのだろう。先週農水省が発表した政府備蓄米の流通実績の資料では、政府備蓄米の買受業者(主にJA)のマージンは60Kgあたり961円でマージン率は4.5%と、JAはほとんど利益を得ていない。一方、それを買った卸売業者が小売・中食・外食事業者に売るマージンは60kgあたり10,904円でマージン率は49.1%。どこに問題があるのかは、明らかだろう。

 政策は客観的データとそれなりの理論的裏付けのある分析に基づいて作られるべきというのが、かつて霞が関で政策を作っていた私の信念だ。「JAが悪い、政府が悪い」と誰かを悪者に仕立ててそれを退治しようとする議論は聞いていてスッキリするが、大方の場合は「幽霊の正体見たり枯れ尾花」であることが多い。むしろ郵政民営化などを見ればわかるように、長年培われてきた大切なものを失ってしまうこともある。小泉進次郎新農相のような横紙破りのやり方は、ひと時の効果を生む場合もあるかもしれないが、それは本質的な問題解決のための政策にはならない。

 荒川氏の本のタイトルには、「まともな農水省OBの農政解説」というサブタイトルが付けられている。農水省の大エースとして将来トップの事務次官になることが予定されていた荒川氏は、第二次安倍政権の政治主導人事によりその地位に就くことができなかった。その代わりに定年を延長してまで次官に就任した人物が行った、農協「改革」や農業委員会「改革」は、農業の現場を疲弊させただけだった。

 もうそろそろ、耳障りの良い、テレビ受けする「改革ごっこ」から冷静に見る目を持たなければ、本当にこの国に大事なものが取り返しのつかないことになるかもしれない、ということを私たちは認識しなければならない。