
〇お隣の常陸大宮市で6年ぶりに「西塩子の回り舞台」が開催されました。これは、常陸大宮市西塩子で約200年間引き継がれてきた日本最古の組立式農村歌舞伎舞台で、戦後一度途絶えていたものを平成9年に半世紀ぶりに復活させ、コロナ禍を除き3年に1回開催されているものです。

普段は人気の少ない山あいの集落は、この日ばかりは大賑わい。地元の鷲子祭囃子に合わせた小瀬高校の生徒たちの生け花でオープニングです。中山間地のこの地域では、耕作放棄地解消のための枝物の栽培が盛んなのです。

大宮北小学校の児童による口上は見事。縁起物の常磐津「子宝三番雙」は、ちょっとぎこちないのが可愛らしい。子ども歌舞伎の「白波五人男 稲瀬川勢揃の場」は、古い言葉の難しいせりふ回しを見事に演じ切って、感動。おひねりの雨が降り注ぎました。ちょうど5月に歌舞伎座で行われた音羽屋襲名披露の団菊祭で、同じ演目を11歳の6代目菊之助、團十郎の息子の12歳の新之助、寺島しのぶの息子の13歳の尾上真秀などが演じたものを観ましたが、それに劣らぬ素晴らしさ。
そういえば大ヒット中の映画『国宝』も、主役の喜久雄が子どもの頃に長崎で演じた歌舞伎を歌舞伎役者が見て、才能を見込んで養子に引き取るシーンから始まりました。なんだかあの傑作映画とも被って、「この子たちは将来どのように育っていくのだろう」とも思いました。

高齢化、過疎化が進む中山間地の小さな集落でこのような催事を続けていくことは、並大抵でない苦労があるものと察します。でも、ここで歌舞伎を演じた子どもたちにとっては、かけがえのない一生の宝物の思い出となるでしょう。昔はこうした農村歌舞伎があちこちで行われていたと言います。農林業の生業が成り立って、そこに3世代の家族が暮らして、集落で共同の作業ができるからこそ、このような農村歌舞伎が可能となります。私は、こうした農村歌舞伎のようなものができる集落があちこちにあることこそが、本来の「美しい日本」なのだと思います。

たまたま日本に生まれ、日本人の顔をして、日本語を話す人は現代にも当たり前のようにいますが、本物の「美しい日本」は今や翳りつつあります。「西塩子の回り舞台」を見て、本物の「美しい日本」を守り続けることこそが私たち政治家の使命なのだ、ということを改めて強く心に誓いました。