●法律論上の論点が整理された良記事。安倍政権時の2019年にも同様の事例があったとして、以下のように分析している。
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【日本政府には主に4つの法的な選択肢があった。
①集団的自衛権や他国軍の後方支援を定める安全保障関連法の活用
②自衛隊法に基づく海上警備行動
③海賊対処法の適用
④特別措置法の制定など――だ。今回も検討の枠組みは似た形になるとみられる。考えられる4つの法的な選択肢はいずれも難題が潜む。
安保関連法の場合、支援対象の相手が国際法に適する反撃を試みていることが前提になる。日本政府は今回の米国のイラン攻撃について国際法上の評価を控えている。イラン攻撃を支持する姿勢を鮮明に示さなければ、米軍支援には加わりにくい。
米軍に集団的自衛権を適用すれば、友好国だったイランを完全に敵とみなすことを意味する。日本にとって外交戦略を大きく転換することにもなる。
同法には、国際社会が共同で脅威を取り除く行動に出る場合に自衛隊が参加する「国際平和共同対処事態」がある。有志連合への参加はこの考え方に近いものの、国連の決議があることが前提になっている。今回適用するにはハードルが高い。
自衛隊法の海上警備行動の場合、船籍が日本の船舶しか護衛できない問題がある。船舶が攻撃を受ければ警察官職務執行法を準用して武器も使用して守るが、その対象は国際法の「旗国主義」に基づき、日本の法律を適用できる日本船籍の船に限るのが基本とされる。
海賊対処法の場合はどうか。09年に制定された際、他国との共同対処に加わることを前提にしていた。船籍に関係なく、他国の船舶も護衛できる。ソマリア沖で米国や英国、オーストラリア、韓国などとともに多国籍部隊を組んで警戒監視にあたった。
ただし、この法律では攻撃相手が「私的な目的」で船を強奪しようとする、いわゆる「海賊」に限られている。ホルムズ海峡でのイランによる攻撃から船舶を守ることは想定されない。
これらの法的論点を完全にクリアするためには、今回の事態にあわせた法制度を整備するしかない。立法には法案作成と国会審議に時間を要する。19年と比べても、実際に本格的な武力衝突とホルムズ海峡の事実上の封鎖が始まっている現在は事態の切迫度が高い。
様々な課題を検討した結果、安倍氏はこの4つの法的な選択肢を取らず、有志連合には加わらない選択をした。19年6月にイランを訪問し、当時のハメネイ最高指導者と会談するなど独自外交を展開した。米国、イランの双方と首脳対話ができるという立場を前面に出す外交をフル活用した】
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安倍政権時と決定的に違うことは、今回の事態が起こった発端である。自衛隊の派遣を可能とする日本の安全保障関連法制は、国際法を遵守することを前提に、国連体制の下での正当なプロセスに基づく国際協調を大原則としている。すなわち、今回のイスラエルと米国の行った攻撃が、国際法上適法なものなのか、国連体制の下で管理可能なものであるのかを自ら判断しない限り、既存法を根拠にするにしても新法を制定するにしても、自衛隊は何もできない。しかし、高市首相はその判断から逃げ続けている。
トランプ大統領も言っているとおり、米国はホルムズ海峡の事実上の閉鎖によってエネルギー安全保障上受けるマイナスは、ほとんどない。むしろ米国の石油会社は原油価格の高騰によってまさにウハウハ状態で、株価が急上昇している。トランプ大統領にとっての懸念は、米国内の価格上昇による国民の不満や戦争を終結できないリーダーシップ不足に対する不信が秋の中間選挙に跳ね返ってくることだろう。
一方、輸入する原油の大部分をホルムズ海峡に頼り、官民合わせて254日分の備蓄しかない日本にとっては、価格面の問題もさることながら安全保障上の危機である。ホルムズ海峡から日本まではタンカーでおよそ3週間。あと1週間もすれば原油を積んだタンカーは到着しなくなり、備蓄を使い果たせば国家の存亡にかかわる状況になる。
同じような状況にある主要国は、日本以外には韓国と台湾くらいだろう。ホルムズ海峡の影響を大きく受ける中国やインドは、イランと独自の関係を維持しロシアとの関係も良好だから、それほど深刻な問題ではない。日本や韓国に駐留していた米軍の精鋭部隊は今中東に向かい、安全保障上の空白が生じている。さまざまな面で、日韓台は八方塞がりの状況にある。
そのような中、明後日高市首相はトランプ大統領と会談をする。安倍政権の時にのような賢明な判断が果たしてできるのか。そもそも、安倍政権時とは事態の緊急性や深刻度はまったく異なる。「飛んで火にいる夏の虫」。今トランプ大統領と話して高市首相、そして日本がとりうる道は、ほとんどない。いずれにしても、今週日本は戦後最大の大きな岐路に立つことになるであろう。