○9月16日に中国がTPPへの加盟を正式に申請したのに続いて、22日に台湾が加盟申請を行った。私としては、まずは日本と政治的にも経済的にも密接なつながりがある民主国家台湾の加盟承認を真っ先にしてあげたい思いだが、現実にはそうはならないだろう。
TPP協定第1・3条の一般的定義で、
【「締約国」とは、この協定が効力を発する国又は独立の関税地域をいう】
としており、台湾は「独立の関税地域」に相当するから、当然に加盟の対象となっている。そもそも、TPP協定を作った時に、それを想定していたのだ。
一方、9月18日の本FBでも書いた通り、中国はTPP協定の条文やこれまでの各国の交渉経緯を十分に研究し、タイミングを見計らいながら満を持して加盟を申請してきている。当然、台湾との関係が争いになるのは、承知の上というより、そもそも争いを起こすために入ろうとしているとも言える。ここで「中国か台湾か」という議論をすれば、まさに中国の術中にはまることになるだろう。
識者は「TPPは中国包囲網」などと解説するが、そんなものは公式にはどこにもない。マレーシアなどは、当初から「中国包囲網なら参加しない」と言っていた。全締約国が中国包囲網に参加するつもりで加盟しているわけではないのだ。
TPP協定の第1・1条には、「1994年GATT第24条及びサービス貿易一般協定第5条の規定に従い、ここにこの協定に基づいて自由貿易地域を設定する」とされている。すなわち、WTOの「関税及び貿易に関する一般協定(GATT)」第24条において、その地域において関税の水準や通商規則が協定締結前より高度であり、その地域以外の国に制限的なものでなければ、自由貿易協定を結ぶことができる規定されていることに基づいて、TPPは締結されているにすぎない。
米国が抜けた今、中国一国のGDPだけで、日本を含む加盟11ヶ国のGDPを合わせたものを上回る。元々低関税の日本が、他の10ヶ国に中国以上の市場としての魅力を与えられない以上、日本以外の加盟国にとっては中国の加盟は経済的に相当な魅力となるだろう。加盟申請するにあたって、中国は自らの産業競争力を十分に見定めたうえで、相当な関税を撤廃する準備をしているはずだ。
「中国は国有企業があるから」とか、「知的財産の保護水準が」などとしたり顔で解説する識者もいるが、実際のTPP協定の条文はこれらの分野で拘束力のある厳しいものにはなっていない。他の一般的な国際協定に準拠しているものがほとんどだ。TPP協定の条文を根拠として、中国の加盟交渉を門前払いすることは、不可能だろう。
一方、TPP加盟交渉への参加は、全締約国の賛同を必要とするから、TPP協定の条文以上に、交渉参加を認めるまでの過程で締約国との間で二国間で行う交渉とそれに伴って締結される「サイドレター(付属文書)」が勝負となってくる。締約国中、最大の経済規模を持つ日本の出番は、そこにある。
日本が「中国か、台湾か」という二者択一に悩んでいれば、今後「待ってました」とばかりに中国に様々な場面で荒らし回られることになるだろう。「米国の参加が先だ」と、いつ来るかもわからない用心棒を待ち続けていては、中国に舐められ、まともな交渉にはならないだろう。
日本は、中国と台湾を両天秤にかけながら、中国の自由貿易を阻害している今のさまざまな制度を変える要求を、豪州やカナダと連携してこの機会に出さなければならない。台湾は、すぐにでも加盟の要件を満たすだろう。しかし、中国は台湾の先行加盟は認められないだろうから、中国と台湾とを同時に加盟させるということを旗印に、中国側に国内制度の根幹的なところを変える対応を促すのだ。
安易な妥協をする必要は、一切ない。中国は、米国とは直接交渉するのは腰が引けるけど日本なら大丈夫と、きっと舐めている。TPP協定への中国、台湾の加盟申請は、戦後初めて日本外交が自立した国際交渉を行うチャンスだと捉えるべきだ。
でもそんな論調は、まだ国内ではほとんど見いだせない。普段は中国に強気な論調の人たちも、「中国とがっぷり組んで交渉せよ」などとは言わない。「オレがやってやるぞ」という気概を持った政治家も見当たらない。肝心の与党は、重要な国際情勢の変化をよそに総裁選に夢中だ。野党は、ピントの外れた内向きの政権公約を連日出し続けている。
皆さん、本物の政治家は何なのか、今日本の政治家は何をすべきなのか、真剣に見極めようではありませんか。