そもそも、交渉事というのは、100対0というのはありえない。50対50か、せめて45対55くらいでまとまるものである。ところが、TPPにおける日米交渉は報道で知りうる限り、農産物について日本がどこまで譲歩するかばかりのゲームであり、日本が何のポイントを獲得しようとしている/したのかわからない。為替レート次第で吹き飛んでしまう自動車のたった2.5%の関税と農産物では、まったく釣り合いはとれない。攻めるタマがあって、「日本の要求はここまでで取り下げるけど、米国もこの程度にしてくれ」というのでなければ、交渉は成り立たないであろう。
大学時代から自由貿易と農業の両立を政策のテーマとして追ってきた私は、TPPに明確に反対すると多くの知人から「いつの間にか族議員になったんだ」とか「反執行部側とくっついて足を引っ張っているだけだ」とか「あいつは選挙が弱いからJA票目当てで反対しているんだろう」などと陰口をたたかれたが、決して特定の産業を守るため、ましてや票目当てに反対したのではない。「何を獲得するのか」という戦略目標なき交渉だったからこそ、反対する腹を固めたのだ。
「話せば分かる」と出身省をはじめ多くの人が私のところに説得にきたが、TPPで何を獲得するのかという具体的な戦略目標は誰も語れず、「どうせ最後は普通の自由貿易協定と同じようになりますよ」という根拠のない甘い見通しや、「とにかく今交渉が動いているのはTPPだけで、これに参加しなければ私たちの仕事がないんです!」というような次元の低い話か、何かに取り憑かれたように「アジア太平洋の成長を取り込め」「第三の開国!」と根拠なきスローガンをオウム返しするばかりであった。
TPPの漂流、RCEP(米国を抜いた日中韓ASEAN豪NZ印等による東アジア地域包括的経済連携)の停滞ということが見通される中で、アジア地域で自由貿易を進めることで日本がどのようなものを獲得し、そのためにどのような枠組みの交渉を優先していくのかということを、根本から考え直さなければならないであろう。経済実態をあまり知らずタコ壺秀才の多い官僚組織や、政府に戦略策定を依存する既存経済団体だけではそれは決してできまい。どのような自由貿易交渉をしていくのかというかという戦略策定のプロセスを変えることこそが、本当の意味での「戦後レジームの転換」である。
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