〇ウクライナ情勢を巡るこれまでの展開は、外交の教科書を読んでいるように眺めてきたが、プーチン大統領はやはり手ごわい政治家だ。武力をもって主権国家の領土を侵略することは国際法上も当然に許されないことであるが、今回は独裁者の独りよがりの決断や癇癪ではない。
プーチン大統領は、起こりうる国連の対応や経済制裁の動きを読み切った上で、獲得すべきロシアの利益とリスクをマネージしながら最大限の行動をしている。ここまでの全面的な武力行動は、綿密な計算と勇気がなければできない。米国のバイデン大統領は、対応に頭を抱えているのではないか。
もちろん日本は、ロシアのこのような行動に主体的に異を唱えなければならない。周辺国と領土問題を抱え、中国の膨張の危機に直面している我が国が、武力で現状を変える試みに甘い姿勢を見せるわけにはいかない。プーチンに直接言える政治家は、安倍元首相だけだろう。
かつて、2019年の東方経済フォーラムで当時の安倍首相は、「ウラジーミル。君と僕は、同じ未来を見ている。行きましょう、プーチン大統領・・・戦いが終わって、来年で75年です。冷戦の終焉(しゅうえん)からでも、30年。私たちは、1956年に、二度と互いに戦わず、相互に敵とみなさず、平和愛好、善隣の原則に立って関係を築いていくことを堅く約束しました・・・ゴールまで、ウラジーミル、二人の力で、駆けて、駆け、駆け抜けようではありませんか」と語った。ここまで言っているのだから、今こそプーチン大統領に「ウラジーミル」と呼びかけるべきではないか。出番だ。