福島のぶゆきアーカイブ

衆議院議員 福島のぶゆきの活動記録です

トリチウム水のリスク

〇かつて私が原子力行政に携わっていた時に、熱心に取材してきてくれた優秀な科学記者の解説。その後、バイオ課時代にも、生命倫理問題の勉強会などでもご一緒した。彼女は、決して「原子力派」ではない。日本の記者には珍しく、政治的なものや人間ばかりを追うのではなく、いつも科学的根拠を突き詰めてわかりやすく報道することに徹している。

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 東京電力福島第1原発の「処理水」が放出された場合のリスクを、どう考えるか。

 リスクの程度は、原因となる物質や事象そのものの危険度に加え、人々がどの程度、それにさらされるかで変わり得る。

 例えば、たばこは発がん性が認められた有害な物質だが、禁煙したり受動喫煙を避けたりすることでリスクは減る。

 処理水に置き換えて考えてみる。トリチウム(三重水素)は通常の水素より不安定なため、安定な状態になろうとして放射線を出す。つまり被ばくの恐れがある。

 ただし、そのエネルギーは低い。水中では最大でも0・006ミリしか進まず、皮膚を透過することもできない。

 取り込んだトリチウムによる「内部被ばく」のリスクはどうか。

 トリチウムは原発からだけでなく、宇宙放射線と大気が反応することでも発生し、環境中に広く存在している。私たちは日々、呼吸や飲食を通じ、トリチウム水として摂取している。

 過去の研究を基に日本放射線影響学会が2019年にまとめた一般向け解説書「トリチウムによる健康影響」によれば、その95%は汗や尿として排出される。約10日で、体内の量は半減する。残る5%は、たんぱく質などと結びついてしばらくとどまるが、蓄積することはなく、被ばく量は同量のセシウムの300分の1以下だ。

 執筆の中心となった田内広・茨城大教授(放射線生物学)は「被ばくによってDNAが傷ついても、修復する機能が人体には備わっている」と説明する。

 大気圏内核実験が繰り返された1960年代には、雨に含まれるトリチウムの濃度が現在の100倍以上だった。それでも目立った健康被害は起きていない。

 原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の16年の報告書は、環境中のトリチウムで公衆が影響を受けるリスクについて「被ばく線量は非常に小さく」、単独で評価することが難しいと記す。

 曖昧さに不安を覚える人もいるだろう。重要なのは、リスクが「あるか、ないか」ではなく、客観的事実を踏まえて「どの程度なら許容するか」を考えることだ。

 「自然界にトリチウムがある限り、リスクはゼロにはならない。でも、濃度を下げることでリスクは減らせる」と田内教授。処理水を基準値以下に薄めて放出するのも、その考え方に基づく。

 こうしている間にも処理水は増える。思考停止せず、着地点を探る努力が必要だ。(論説委員)

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 日本人は、「リスク」という概念を理解するのが苦手だ。ここにも書かれているが、「リスク」は「ある」か「ない」かの問題ではなく、科学的に評価されたものをどう受け止めるかという概念だ。

 日本での一部のヒステリックな議論や、韓国や中国での情緒的で異様な反応を見ていると、西欧近代を内発的に消化できないアジア人特有のものなのかもしれない、とも思う。私は、「近代の超克」を追い求めている者だが、こうしたアジア的反応は「超克」とは程遠い野蛮であろう。