福島のぶゆきアーカイブ

衆議院議員 福島のぶゆきの活動記録です

アベノミクス

 再政権交代で「アベノミクス」なる政策により円安となり、ヘビ年になってからの株価も脱皮をしたように好調である。各種団体の新年会でも明るい声が多いことをまずは喜びたい。しかし、政治は目の前の現象だけを追い、それに一喜一憂していてはいけない。私なりのアベノミクスの評価を述べてみたい。
 日本の景気低迷の一つの大きな要因が金融政策にあることは、民主党政権時から何度も私は党内で主張してきた。確かに金融緩和にはさまざまな副作用も付きものであるが、米欧等が新しいステージの金融緩和策を進める中で、日本だけがそうした他国の流れと歩調を合わせることに鈍感もしくは臆病であれば、円高・デフレとなることは理論上も当然である。経済学に疎い政治家たちが政治主導を掲げて主要閣僚を務め、経済に鈍感な財務官僚の言いなりだった民主党政権では、こうしたことに対して恥ずかしいくらいピント外れの円高対策ばかりを行ってきた。そうした意味では、安倍政権がまず金融緩和を日銀に強力に求めたことは正しい。これまでにない金融緩和への期待が円安をもたらし、相対的に割安だった日本の株式市場に資金が流れ、株価が上昇するのは当然のことである。
 しかし、これにはいくつかのリスクがあることも認識しなければならない。まず、現在の株高は実体経済を反映したものではなく、あくまで金融緩和への「期待」というフワフワしたものを原点として生まれているということである。年初来の株高を、どのように実体経済の回復につなげていくのかの道筋は、政治が描かなくてはならない。アベノミクスは、速効性を狙ってこの点をまず補正予算による公共事業の大盤振る舞いというケインジアン的政策でスタートさせようとしている。しかし、1回の補正予算の編成に消費税10%分にも及ぶ建設国債を発行して行うことに国債の信認の問題は起きないのであろうか。現に長期金利は急激に上昇しつつある。長期金利の上昇は、ただでさえ一般会計予算に占める国債利払い費が多くを占める中で、日本の財政を危機的な状況に至らしめることになるから、実際のところこれからはかなりの綱渡りであることを覚悟しなければならない。
 また、私は緊縮財政を敷いた橋本政権を継いだ小渕政権で、「株よ上がれ」と小渕総理自らがカブを両手に持って踊り、「世界一の借金王」と自嘲するのを見てきたが、この時も財政出動に見合うだけの経済成長は実現できなかった。現在建設業界は東日本大震災の復興需要ですでに多くの需要をつかんでいる。これにさらに需要を追加するとした場合に、人件費や資材の高騰などを招く可能性が高い。そうなれば売り上げはあっても利益は上がらない、ということになりかねない。これらの点からみても、金融緩和と建設国債の発行による公共事業の拡大を同時で進めるアベノミクスは、飲み合わせの悪い薬を一緒に飲んでいるようなものに思えてならない。
 さらに、「円高=悪」という図式も、過去の貿易黒字が続いていたときのものであることを認識しなければならない。大飯を除く原子力発電所の稼働を止めて以降、燃料の輸入増などにより貿易収支が赤字となっている。そうした中で、円安となれば、当然原油等のコストが増大し、経済活動に大きな悪影響を及ぼす。穀物価格も気候の不順により上昇の兆しがある中で、食料・飼料等も高騰する可能性が高い。「2%の適度のインフレ」などと呑気に言ってられない、本格的なインフレやスタグフレーションとなる可能性があるのだ。マクロでみても、これまで日本経済は巨額の財政赤字を民間の貯蓄超過と貿易収支の黒字などでファイナンスしていたのが、貿易収支の赤字が拡大する基調となれば、本格的な「日本売り」となって止め処ない円安となる恐れすらあるのではないか。
 これに外交的なリスクが加算される。アルジェリアでの不幸な出来事に見られるように日本のエネルギーを担う中東の情勢は引き続き不透明だ。報道によると中国が尖閣をめぐっての戦争の準備に入ったというように、今や日本自身が世界経済上の外交リスクとみなされつつある。どのような出来事が起きても、これまでの健康な日本経済と異なり、きわめて深刻なダメージを与える可能性があるのだ。
 このようにみてみると、アベノミクスは、きわめて狭い橋を渡る日本経済にとっての「最後の賭け」をやっているように思えてくる。私は、民主党政権のように財務官僚の言いなりにはならずに、「最後の賭け」に乗り出そうとする意思は買いたい。問題は、安倍総理自身がそれを認識してるかだ。一つ一つの政策は、理論的には正しくても、それらを複数進めると大きな副作用をもたらすことがある。それぞれの政策にはそれぞれの流派のブレーンがいるのであろう。しかし、そうしたブレーンたちの意見をすべて同時に聞いていたら、薬の飲み合わせの悪さによる破たんの道へと歩むであろう。為替、株価、物価、金利などあらゆる指標を見ながら、そのときどきに最適なブレーンの意見を聞くことができるのか、総理を筆頭とする官邸のスタッフの高度な知的判断と反射神経が必要となってくるのだ。「お友達内閣」と揶揄された第一次安倍内閣の轍を踏まないことを望みたい。
 私は、今年がいろいろな意味で日本の戦後の一つのターニング・ポイントとなる年になるような気がしてならない。これまで私たちが経験したことのないようなことが起こりうるのではないかと予感がしている。そうしたことに対して、昨年末の選挙の結果などは瑣末なことでしかない。常に感性を持って、世の中の動きを冷静に眺め、出番を待つしかない。-----