サミット時に安倍総理が4枚の資料を出して「世界経済にリーマンショック並みの危機が迫っている」といきなり話し始めたら、一体何の話をしているのかと各国の首脳があんぐりとしたという。この資料自体、経済分析を行う内閣府が作ったものではなく、経済に全く素人の外務省が作成したということ自体、眉唾ものの歴史的怪文書だ。
安倍政権官報の読売新聞は「G7版「三本の矢」実行」などと、さも安倍総理が世界の経済政策をリードしているようにはしゃいでいるが、イギリスのフィナンシャルタイムズは「世界経済が着実に成長する中、安倍氏が説得力のない2008年(リーマンショックとの)比較を持ち出したのは、安倍氏の増税延期計画を意味している」、フランスのルモンド紙は「自国経済への不安を国民に訴える手段にG7を利用した」、アメリカのCNBCは「あまりに芝居がかっている」と報道している。日本の記者クラブは丸め込めても、海外のメディアは騙しきれない。では実際にはどうなのか。
サミット後の記者会見で安倍総理は、「世界経済が、通常の景気循環を超えて「危機」に陥る、大きなリスクに直面している...。私たちG7は、その認識を共有し、強い危機感を共有しました」と言っているが、G7の首脳宣言では「世界経済の回復は続いているが、成長は引き続き緩やかでばらつきがあり、世界経済の見通し対する下方リスクが高まってきている」としているのみで、どこにも「強い危機感の共有」などは書かれていない。ちなみに「リスク」という概念は、日本語に翻訳できなくて日本人にはなかなか理解できない概念だが、ハザード(被害)の大きさと実現可能性を掛け合わせたものと一般的に言われている。「下方リスクが高まる」とは、「景気後退の確立が上昇している」程度の話であり、「「危機」陥る」というものではない。
また「G7で協調して、金融政策、財政政策、そして構造政策を進め、「三本の矢」を放っていく。そのことを合意しました。アベノミクスを世界で展開してまいります」と大見得を切っているが、首脳宣言では「三つの方向のアプローチ(three pronged approach)すなわち相互補完的な財政、金融及び構造政策の重要な役割を再確認する」とあるのみで、どこにもアベノミクスだの「三本の矢」を展開するというような表現はない。外務省は、あえてthree pronged approachを「三本の矢」と「超訳」しているが、首脳宣言では「金融、財政及び構造政策を個別(individually)にまたは総合的(collectively)に用いる」としており、三つの政策をそれぞれ個別に講じるのはアベノミクスの「三本の矢」と全く異なる政策手法であり、この英語をどうやったら「三本の矢」と訳せるのか理解に苦しむ。むしろ「債務残高対GDP比を持続可能な道筋に乗せることを確保する」と、安倍政権がG7を利用して行おうとしている安易な財政出動を諌める文言すら盛り込まれているのだ。
このように、どこにも、G7が「三本の矢」を協調して進めることも、日本が消費税増税を延期したり財政出動を行うことを推奨する記述はない。日本人が英語が苦手で、海外の情報に疎いことをいいことに、日本だけがG7の首脳宣言を独自の解釈、超訳を行って、国際的な権威付けの下に政策を捻じ曲げていく姿を世界にさらすのは、誠に恥ずかしいことだ。これから国政選挙に向けたさまざまな情報操作がなされるが、日本のメディアがあまりにも世界のメディアと比べて特異であるということを認識して、物事の本質を国民の皆さんに見極めていただかなければならない。
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