福島のぶゆきアーカイブ

衆議院議員 福島のぶゆきの活動記録です

TPP交渉参加問題について

安倍総理の訪米、2月22日の日米首脳会談を控えてTPP交渉参加問題がまたクローズアップされてきた。これまでTPP交渉慎重派の先頭に立って議論してきた私の立場は、すでに2011年10月18日のブログ

fukushima-nobuyuki.hatenablog.jp

や2012年5月3日のブログ

fukushima-nobuyuki.hatenablog.jpで書いてきたことから変わっていない。もう一度簡単に復習してみる。この問題は、アジア太平洋地域の自由貿易のルールといいながら、菅政権、野田政権そして安倍政権と日米首脳会談のたびにTPPへの参加が大きな話題になることに、本質的な問題がある。私自身は、日本経済の生命線はアジアであり、アジアでの自由貿易圏を日本が主導して作るべきであると考えている。しかし米国が主導して進めているTPPへの参加問題は、あまりにも受動的、戦略性がないものであり、具体的な獲得目標もいまだに明確ではない。アジアでの自由貿易圏に至る道は一つだけではないはずなのに、「バスに乗り遅れるな」とか「米国とともに中国を封じ込めろ」というメディアが垂れ流す単細胞的なスローガンに乗っかって何かに追われるように交渉に参加しても、得られるものは少ないであろう。
 一番我が国にとって不利なことは、TPPの交渉ルール自体が特殊なものであるということである。かつて日本のスキー複合が強かった時にルールを変えられてしまってその後勝てなくなったことにみられるように、ゲームに勝つためには、自ら勝ちやすいルールを設定した者が圧倒的に有利になる。TPP交渉の特殊性は、①すべての交渉参加国が参加を認めなければ交渉にすら参加できない、②すべての品目を自由化交渉の対象としてテーブルに載せなくてはならない、ということにある。このルールは、通常の自由貿易協定の交渉では「自国をこれだけ開放するから、相手国はここまで開放せよ」と駆け引きを繰り広げられるが、それができないことを意味する。日本のマーケットは相手国にとってアジアで最も魅力的な市場の一つであり、日本は本来バーゲニングパワーを持っているにも関わらず、このルールではそれを使うことができない。さらに、①のルールについても、交渉参加国の中でアメリカだけは日本を交渉参加国と認めるために議会の承認がいるという特殊な国内制度を持っているため、アメリカに対しては事前の「前払い」つまり事前にどこまで譲れるのか手の内を明かさなければならない場合がある、という不利な点があるのだ。だからこそ、「とりあえず交渉に参加してみてダメだったらやめたらいいじゃないか」ということではなく、交渉に参加する前に交渉ルール自体を日本にとって有利なものかどうか確認しなければならないのだ。
 そこで、安倍総理の訪米である。自民党は先の衆院選で「聖域なき関税撤廃を前提とする限り、TPP交渉参加に反対する」としているので、これは裏返せば関税撤廃の「聖域」が認められれば、TPP交渉に参加できることとなる。(なお、自民党の基本方針では、国民皆保険制度を守ることや食の安全安心の基準を守ることなども求めているが、これは交渉によって守ることであり、「交渉参加」自体に反対する理由にはならない。)政府がこれまで行ってきた情報収集では、現在の交渉参加国は、
①全ての品目を自由化交渉の対象としてテーブルに乗せている。(報道されている米国の砂糖は豪州との二国間の協定との優先関係の問題で、その品目自体を関税撤廃の例外とはしていない。)
②関税撤廃の原則は、90~95%を即時関税撤廃し、残る関税についても7年以内に段階的に関税を撤廃すべきと主張している国が多数。
③現時点で除外(つまり「聖域」)を求めている国はない。
ということが確認されている。これまで累次にわたるUSTRのカトラー代表補やワイゼル代表補らとの会談でも、何度も「日本はすべての品目を自由化交渉の対象とする用意があるのか」と問い詰められている。「関税撤廃の除外があるのか」という日本側からの問いかけに対しても、常に「要は日本にこれまでにない自由化をやる気があるのかどうかだ」という精神論で返されて言質は一切与えられていない。
 私は、いくら安倍総理オバマ大統領に直談判したところで、現在の大統領と議会の関係、米国民主党に対する米国経済界の評価などを考えたときに、米国が関税撤廃の例外を認めることはないと考えている。仮に米国が認めたとしても、今度は豪州やNZなどが認めないであろう。現在日米双方の事務方同士では、自民党の公約と矛盾しない形でどのような表現なら交渉参加が可能か、調整が進められていると聞く。自民党の公約には「聖域」の定義がない。おそらく上記②の即時関税撤廃の比率を引き下げることや、関税撤廃までの期間を例外的に延ばすこととすることが読めるような文言を持ち出し、それをもって「聖域」とするのではないだろうか。そして、参議院選挙前までには例外品目が認められるような期待を持たせながら農業関係団体を走らせ、参議院選挙後にはすべての品目を関税撤廃交渉のテーブルに乗せた交渉参加を表明し、結果はケセラセラになるのではないか。
 繰り返すが、「TPP交渉に参加するかどうか」という問題は、日本がアジアでの自由貿易圏を拡大するための選択肢の一つにしか過ぎない。私はTPP参加問題ばかりで国論を二分して議論している間に、「いかにして日本が主導してアジアでの自由貿易を進めるのか」というもっと本質的な議論が置き去りにされていることに危機感を持っている。この20年間(大部分は自民党政権下)日本が各国との自由貿易協定を結ぶことに出遅れてしまったのは、日本が何を譲って何をとるのかという戦略性をもって他国と交渉をし、譲る部分について国内の反対業界と調整する努力を政治がしてこなかったからであり、これ以上無為に時間がロスされていることに危機感を持っている。自由貿易の推進は、アベノミクスの三本の矢の三番目の矢の一つの中核であろう。これまでの失敗や不作為の経験をしっかりと認識し、本質的なとりくみができるのかどうか、注目してまいりたい。-----