福島のぶゆきアーカイブ

衆議院議員 福島のぶゆきの活動記録です

TPP交渉参加問題についての整理

前回のブログで書いたTPP問題が動きはじめ、私が予想していた通りの動きとなった。前回も書いたとおり、TPPの交渉ルールが特殊なものである以上、それを改めない限り慎重であるべきというのが私の立場だ。
 今回の訪米を記者クラブメディアは「大きな成果」と取り上げておりますが、果たしてそうであろうか。今回の日米の共同声明では、

①全ての物品が交渉の対象とされること
②2011年11月12日にTPP交渉参加国が中間報告的に表明した包括的で高い水準の協定を達成すること
③日本の農産品、米国の工業製品などのセンシティビティーが存在することを認識しながら、交渉によって今後決定していくこと
④交渉参加に際して一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められないこと
⑤自動車部門、保険部門に関する米国側の懸案事項に関する二国間協議を継続すること

が確認されたが、これまで民主党政権の時に米国側が言ってきたことを改めて文書化したに過ぎず、首脳会談で何ら新しい譲歩や条件を引き出しているわけではない。
 そもそもTPPは「一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束する」ものではない。前回のブログでも書いたとおり、問題は「全ての物品が交渉の対象とされること」である。今回の共同声明では、自民党が言う「聖域」があるかも、「聖域とは何か」も明確にしていない。「交渉次第」ということだ。私がかつて「値札の付いていない銀座の高級寿司店」に喩えた、すなわち「何が出て来るかわからず、入ってみたらとんでもない値段を請求される」という特殊な交渉ルールは、改めて確認されこそすれ、何も変わる余地はない。
 むしろ、共同声明ではこれまでの9ヶ国での交渉結果をそのまま受け入れさせられることを確認し(上記②)、自動車や保険の分野で米国から一方的に要求を突きつけられる不平等性(上記⑤)も今回改めて文書で確認している。交渉参加するにしても、著しく低いポジションからの交渉を始めることを確定させたと言ってもいいだあろう。それを経団連のように「首相の交渉力を高く評価」とか、歯の浮きそうな言葉で共同声明を称える新聞記事をみると、この先の交渉は一体大丈夫なのだろうか、と先が思いやられる。
 そもそも今回の流れはすべて霞が関のシナリオ通りに進んでいる。「聖域なき関税撤廃を前提とする限り。TPP交渉参加に反対する」という自民党の公約は、野党時代に林芳正農林水産大臣が中心となってとりまとめたものであるが、この文言自体TPP推進派も認めうるものを役人の入れ知恵で生みだしたものであることを私は知っている。TPPは「全ての物品を交渉のテーブルに乗せなければならない」ことが問題なのであって、はじめから聖域なき関税撤廃を「前提とする」ものでないことは、わかっている人はわかっている。すなわち、この文言はTPP交渉参加の判断にあたってはカラの意味のない文言であることを推進派は知っていたからこそ、このような文言で自民党内がまとまったのである。したがって、自民党政権になって「聖域なき関税撤廃を前提とするものであるかどうか」ということにスポットライトが当たれば当たるほど、霞が関の推進派官僚の思う壺なのである。安倍総理が何度も訪米前にその言葉を口にしたのも、官僚たちの振り付けの賜物であろう。
 そして、総理訪米前には、各紙に「TPP交渉参加表明へ」という怪しげなリーク記事が連発された。これも霞が関の常套手段で、リーク記事に対する反対する勢力の反応を見て、どの程度突っ込むかを判断するために行っている。今回、JAなどの抵抗する団体は「自民党だから大丈夫だろう」とタカを括って大した行動をしない様子を見て、おそらく「突っ込んでも抑えられる」と判断したのだろう。さらに、昨日はTPP交渉参加は政府一任とされることが自民党役員会で了承された。「政府一任」とは、「口うるさい政治家たちと総理大臣とを切り離して、総理大臣は官僚が操りますよ」という霞が関の勝利宣言である。自民党政権操縦術に長けた官僚組織は、選挙などの政治日程に配慮し、族議員たちの適当にあやしてながらどんどん交渉を進めていことになるだろう。
 私はこのような官僚組織が悪いと言いたいのではない。しかし、お勉強のできる優秀な官僚たちは政策を法案や予算案に仕立てる専門性はあっても、交渉術が特別優れていたり、何が国益なのかを判断する能力があるわけではない。受験戦争の勝者の集団は、結局のところ「交渉」という目先のお仕事を真面目にやること自体が目的となっていまい、「この国のために何を獲得するのか」という意志はあいまいになりがちだ。上記の③とか⑤を見てみると、正式な交渉参加までに、自動車で何らかの安全規制の緩和や軽自動車の税制優遇措置の見直しなどを約束させられ、「聖域」については日本車の米国での関税を維持する代わりに日本のコメのミニマムアクセスと関税措置を維持するというバーターになるのではないか。仮にこうなったら、米国側で問題の関税は自動車・トラックぐらいだから、何のためにTPPをやるのか、という話になってしまう。
 これまでの政府の動きをみていると、これまでの交渉能力のない日本外交の轍をそのまま踏んでいるが、果たして知力、胆力、戦略眼のある政治家がいて、何が国益かを見極めてしっかりとした交渉ができるのか、お手並みを拝見してみたい。

-----