〇私を含めて、台湾に親しみを感じ、台湾が好きな日本人は多いが、意外と台湾がどのような国なのかは知らない。
台湾の政治体制は直接選挙で選ばれる総統が任命する非政治家の行政院(内閣)が執政を行い、同様に選挙で選ばれた立法院(国会)は与野党を問わず行政院を監視するもので、議院内閣制の日本とは違う。
それを前提にしても、民主政を自ら勝ち取った国民は、投票権を有する国民の多くが民主政の意味を理解している。
こうした危機管理のときに、民主政の成熟度合いや本物かどうかが政府の対応の良しあしを決める、ということを私たちは台湾から学ばなければならない。
【(台湾大学の)張教授は私の疑問に対し、こう指摘した。「台湾民衆はいつも政権を厳しく監視しているが、日本ではこの監視の力が弱い。だから安倍晋三首相は思いのままの政治を進めてきた。台湾人は政治はどうあるべきかを熱く語る人が多いが、日本人は政治と自分たちの生活は関係ないと考えている人が多いと私には見える」 】
【台湾でタクシーに乗れば運転手が政治談議を始めることは日常茶飯事だ。日本に比べ「政治が自分の生活を左右する」ととらえている人が多いと感じる。蔡政権が大敗した18年の統一地方選で投票所の取材をした際は、多くの有権者が私にこう言った。「今の政権に失望したら、私たちの1票で新しい人に代えればいいだけだ」 】
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30年以上前にルックイーストといって日本を見習って近代的な行政制度を整えたマレーシアは、今や日本より科学的知見に基づく政策を実行する「知が支配する」国になっている。
TPP反対で連携した時も、マハティール首相を先頭に日本以上に健全な批判精神を持つ市民社会が育っていることを実感した。
日本は、残念ながらこの30年で、これらの国に追い越されつつある。
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【緊急時に一定の私権を制限し、市民の協力を得るための大前提は、多くの有権者が政府を信頼していることだ。台湾では陳時中本部長が毎日、専門家と共に欠かさず記者会見を開き、記者の質問が途切れるまで答える。説明責任を果たそうとする姿勢が、ひしひしと伝わってくる】
【もう一つ重要な点は、「最悪の事態を想定し、早期に最善の体制を整える」という方針を台湾政府が徹底していることだ。小中高校の授業再開は、その好例だろう。政府は2月2日、冬休み明けの始業を2週間遅らせると発表した。授業時間が短くなれば、子供の教育を受ける権利が損なわれる。こうした懸念に答えようと政府は「学校の防疫体制を整えるために2週間必要だ。代わりに夏休みの開始を2週間遅らせて授業時間を確保する」と説明した。
計画通りに2月下旬、授業は再開した。時間に余裕をもたせて「なぜこの政策が必要なのか」について説明を尽くすため、市民の協力も得やすい。再開までの間に、各学校は政府の指示を受けてオンライン授業の準備を整えることもできた。日本政府が2月末、教育現場や保護者への配慮も説得力のある説明もなく、唐突に全国の学校の一斉休校を発表したのとは対照的だ。】