福島のぶゆきアーカイブ

衆議院議員 福島のぶゆきの活動記録です

国産ワクチンの開発

〇今日の読売新聞。「ワクチン国産へ担当閣僚」として、自民党の提言案がまとまったことを伝える、自民党からのリークによる囲み記事が掲載されていた。

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 私は提言そのものを入手できていないため原文を確認していないが、国産ワクチンの開発に向けて目玉が「担当閣僚の設置」だとすれば、まったくの的外れで、私が大学で教えていた時の大学院生のレポートの水準にも満たない提言である。

 そもそも、私が20世紀末に経済産業省生物化学産業課(通称バイオ課)にいた時から、世界の公衆衛生におけるワクチンの位置付けが大きくなり、世界中のメガファーマがワクチン開発競争を行っている流れに日本の製薬産業が取り残されていことが大きな問題となっていた。

 私なりの仮説は、

「原子力や遺伝子組換え技術など大きな便益はあるけどリスクがある科学技術を社会に受け容れるのが著しく苦手な日本社会において、ワクチンマーケットはリスクが高いマーケットである。国民皆保険の薬価制度のぬるま湯の下で存続してきた日本の製薬メーカーは、リスクはあるけど膨大な利益が上がるグローバルなマーケットを目指すより、リスクが小さく国内でそこそこ利益が上がるビジネスを選択してきたため、ワクチンに力を入れようとしなかった」

というものだった。(以下、本1冊分くらいのウンチクについては、省略)

 政治の世界に入っても、私はメガファーマのロビーイングを手伝ったり、薬事法の抜本改正に民主党のプロジェクトチームの役員として取り組んだりもしてきた。厚生労働省も、遅ればせながら重い腰を上げ、2007年には『ワクチン産業ビジョン』というものを世に出した。

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 そこには、もうすでに

【日本国内においては、1995年にA型肝炎ワクチンが上市されて以降、新開発のワクチンは上市されていない。我が国の市場は、国内自給型のワクチン生産体制を維持しているという点において特徴的であるが、反面、国際的事業展開を行う企業が生産・供給し、外国で販売されている新ワクチン、混合ワクチン及び改良ワクチンの多数が、日本国内には導入されていない現実がある。

 国内に導入されないワクチンが存在する理由として、外国企業にとって、わが国のワクチン規制等は閉鎖的であり、開発ニーズも不明瞭、国の施策におけるワクチン開発の位置づけや方向性も不明確であることから、これらの企業が参入に躊躇しているのではないかとの意見がある。

 国内企業にとっても、新規のワクチン開発は重要な課題であるが、ワクチンの有効性、安全性に対する国民からの期待を背景に年々医薬品規制が厳格化され、研究開発費の増加を余儀なくされる現状では、開発したワクチンが将来にわたって投資に見合った収益を産み出し得るか、国の施策における位置づけが安定し、また国の支援が安定的に得られるかといった点が、開発後の市場性を判断する上での不確実性となり、開発着手を躊躇させる要因の一つになっているのではないかとの意見もある】

 と、遠慮しがちな書き方ながら、問題の本質がズバリと指摘されており、それに対する処方箋も的確に提示されている。

 日本の識者や官僚は個人的能力では世界的に通用するレベルの者も多いから、こうした的確な問題認識や処方箋の提示はメンバーさえ揃えばいくらでもできる。問題は、それを日本にとって重要なものだと認識して、具体的な法制度や予算案などを作り成立させることに繋げる統治システム、政治機能が不全であることなのだ。

 これまでそうしたことに問題意識を持つ感性や知的能力がなかった政治家をいくら担当閣僚につけても、こうした政治機能の不全は改まることはない。むしろ知性のないポピュリスティックな政治主導で行われる自称「改革」は、科学的安全性のチェックが不十分だったりして、問題を引き起こすことになるだろう。そうなれば、再び世論が慎重化して、それに政治家たちは右往左往するということをこの国の政治は繰り返してきた。

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 菅政権は、デジタル庁の設置や、ワクチン担当大臣の任命、そしてこれからは「子ども家庭庁」の創設など、器や見かけを作ることばかりにこだわってきた。しかし、コロナ禍でわかったことは、そうした器や見かけだけを取り繕う弥縫策では何も対応できないこの国の統治システムの不全だ。

 それを変えることができるのは、国民の投票行動によるものしかないのであるが、果たして国民の皆さんはお気づきであろうか。