福島のぶゆきアーカイブ

衆議院議員 福島のぶゆきの活動記録です

TPP議論再開

 今年もまたTPP(環太平洋自由貿易協定)の議論がはじまった。昨年も9月に菅前総理が表明してはじめてTPPという言葉を日本人が知ることとなり、今年も9月になって急に議論が再開された。あまり多くを語りたくないが、9月の国連総会に総理と外相が米国に行った後に、この議論がはじまることにTPP協定の本質がある。

 私は党の経済連携PTの幹事の役職を拝命した。大きく国論が割れる中で、総理が11月にハワイで開催されるAPECまでに、我が国の何らかの方針を決めなければならず、その党としての対応案の素案を作成する重要な役割を担うこととなった。素案作成メンバーで慎重派は私ただ一人。夜の眠りが浅くなるほどのプレッシャーを感じながら仕事をしている。

 私は、自ら政治を志した理由の一つが、農政改革を行って農業と自由貿易を両立させることであるので、日本の利益になるような自由貿易は強力に推進していきたいと思っている。しかし、今得ている状況で判断する限りは、これまでに変わらずTPPには慎重に対応せざるを得ない。むしろ体を張ってでも11月の参加表明は止めなければならないと思っている。決して「農業を守る」などという特定業界のためなのではない。その理由は、

①「環太平洋」のタイトルとは異なり、アジア太平洋の大国であるメキシコ、カナダ、台湾、韓国、中国、タイ、インドネシアなどが加わっていない実質的な日米自由貿易協定で、もともと関税率の低いアメリカと結んでも関税率低下による経済的利益は大きくない。

②日欧、日中韓、日豪、さらにはマルチの枠組みのWTO自由貿易に至る道のりはさまざまなものがある中で、今のような「バスに乗り遅れる」とか「アジア太平洋の孤児になる」という情緒的なTPP狂想曲の中で交渉に参加したとしても、切ることができるカードが少なく上手な交渉になりえない。

③こうした中で、TPPのもう一つの柱である規制改革については、米国が韓国をはじめとする国と結んでいるFTAを見てみると、米国は相当シビアな交渉をしてくるはずであり、たとえば米韓FTAでみられるような医薬品・医療機器の価格決定に米国の業界が関与するような「不平等条約」を押し付けられる可能性が高い。

④これまで日本は国際的なルールメイキングの場において、環境問題や安全規制を巡る欧州と米国の対立、自由貿易をめぐる先進国と途上国の対立、アジアをめぐる米国と中国の対立などにおいて、「第三の道」を行くことで両者のバランスを取りながら存在感を発揮してきたが、そのような存在感のあるポジショニングを失うことになる。

⑤「今参加すればルールメイキングに参加できる」という意見もあるが、P4協定と言われるTPPのルーツとなる条約の基本部分についてはルールメイキングの余地はない。各国の細かい個別規制の部分については多くはすでに米国が意欲的な交渉を行っていて、その結果次第で判断すればよい。

⑥むしろ早く参加させたいのは、ハワイで開かれるAPECを来年の大統領選挙に向けたポイントとしたいオバマ政権であろう。これから交渉事をはじめるに当たって、相手の事情に必ずしも合わせる必要はない。

ほかにもいくつもの理由があるが、今回のTPP交渉参加のスタンスはあまりにも戦略性がなさすぎる。そして、マスコミを含め、日本国中が情報をろくろく得てもいない中で、TPP、TPPと騒ぎ立てるのは異常すぎる。自由貿易の利益というのは多くの人が認めると思うが、TPPで具体的にどのような利益があるのかを説明できる人はいないのではないか。昨日、政府から「TPP協定交渉参加で我が国が確保したいルール」というものを聞いたが、TPPでしか得られないような大したものはまったく見受けられなかった。経済界も自動車業界も含め何人かの経営者と膝詰めで話をしてみたが、「具体的にあなたの会社にどのような利益がありますか」と聞いても、「円高をどうにかしてほしい」「韓国との競争条件を改善してほしい」という抽象的な答えは返ってきても、TPPがそれを解決する具体的な手段になるのかいうと答えはない。私は、TPPというのは逆の意味で前原政調会長の言うように「お化け」なのではないかと思っている。

 かつて我が国は「満蒙は日本の生命線」と言って国民こぞっての熱狂の下で大陸に進出し、めぐりめぐって敗戦に至った。時代は石炭から石油の時代に変わりつつある中で、ピント外れの外交戦略によって、石油の確保という目的は達せられなかった。「アメリカはアジア戦線には参戦しない」「ソ連は日ソ中立条約があるから攻めて来ない」そういう甘い見通しを当時のリーダーは国民に言い続けてきたが、結果的にはすべて逆の結果となった。メディアがこぞって同じことを言うときこそ危険だ。きちんとした情報に基づく冷静な決断ではなく、抽象的な理念に基づく決断を追い詰められるようにリーダーがしているときこそ危険だ。繰り返して言うが、戦略的な自由貿易交渉は大切だ。しかし、それは何を日本が獲得すべきなのか目標をはっきりと定め、それに至るための複数のカードを手元に持ちながら、したたかに交渉してこそ実現するものだ。「TPPに加盟しなければ日本はアジアの孤児」「TPPに加盟しなければ日米関係が崩壊する」そんな追われるようにして参加する交渉が成功するわけがない。

 私は、政治家として、日本の進む道を誤らないためにも、一時の熱狂に惑わされることなく、冷静に戦略的な議論をしていくつもりだ。そして、政治家としてそれなりの覚悟をもって行動してまいるつもりだ。本日は靖国神社の秋季例大祭。かつての日本のリーダーたちの失敗の犠牲ともなられた英霊にお参りしながら、そう誓った。