5月9日の参議院本会議で川口順子環境委員長が解任された。さまざまな論評がメディアで話されているが、党派の利益を超えて私なりの考えを記したい。
まず川口委員長が国会のルールに違反したということは明確なことであり、院のけじめとして解任が相当かは別として何らかの罰則をかけることは、当然のことである。メディアの多くには「国益にかなうことなのだから今回のルール違反はやむを得ない」というような論調があるが、これは「目的さえ妥当であれば人を殺してもやむを得ない」ということと同じであり、到底法治国家のメディアの論評とは言えない。
また、外交は本来は政府が一義的には行うものであり、議員外交はそれを補完したり、複層的にするものにすぎない。外交を所管してもいない環境委員長が一日延ばして中国要人と会ったとしても、微妙な外交問題を抱える中国と国益を増進させるための成果が得られるほど、外交は甘いものではない。常識的に考えても、今回の場合は自ら招集した委員会を中止するほどの国益がそもそもあったとは考えられない。
問題の一つは、国会議員が国会会期中に海外になかなか出られるない厳格すぎる国会のルールがおかしいというものであろう。私も、この点については改めるべきであると思う。先日私は米国を訪問したが、米国の議会関係者は政権が代わった後の日本の国会情勢に非常に興味を持っていた。しかし、日本側からあまりにもそうした情報や意見の交換に訪れる国会議員が少ないのが現状である。今回の野党の対応を党利党略だと批判するのであれば、与党として国会ルールの見直しを強力に進めるべきであろう。「ルールが悪いからルールを破った」という言い訳は立法府の人間には通用しない。
次の問題は、さも鬼の首をとったような野党の態度が、政策論争抜きにただ足を引っ張っているだけのように見えるということであろう。確かにそのような面もあるかもしれない。しかし、私は参議院本会議での松井孝治議員の提案理由説明を聴いたが、かつて川口議員の部下だった松井議員の演説は抑制が利いていて、そのようなはしゃいだ態度のない立派なものだった。自民党の岩城議運委員長の方から、川口議員の中国訪問を1日短縮し、環境委員会のセットも1日早まることを提案してきたということを聞いて、それが本当なら今回のケースははじめから「野党は党利党略ばかり」と批判するための罠だったのではないか、とも思えてしまう。国会には魑魅魍魎が住んでいるのだ。
私が民主党の議員だったから、このようなことを言うのではない。いずれにしても与野党双方が相手の国会対応についての非を言いあうこのような国会運営は不毛なものである。川口議員も松井議員も私の経済産業省の先輩であるが、今回の参議院選挙で引退する議員でもある。お二人とも人格、見識、能力とも素晴らしい方だし、国を思う気持ちも同じであろう。そのような二人の議員生活の決算期に、このような問題で相まみえるというのも皮肉なことだ。ぜひ残る任期の間に、二人で党派の垣根を超えて国会ルールを見直すために行動してほしいものだ。