〇各紙この岸田首相の講演を大々的に報道しているが、20年前に構造改革特区を発案した者として情けない思いになった。日本の首相は、ニューヨークで講演を行う時、聴衆に媚びて国を売るような発言をすることが多い。
構造改革特区制度を発案した時、当時の政府内では「特区は社会主義経済から資本主義経済に移行する遅れた国がやるもの」という消極論がかなりあった。しかし、全国一律の規制と違う多様な規制(ルール)の導入を可能とするこれまで他国にはあまりない斬新な制度である、と説明をして少しずつそれが理解された。特区とは、何かの殻を突破する先導的なものでなければならない。
この「資産運用特区」はどうだろう?衰退しつつある日本の数少ない強みは、これまで経済大国時代に蓄積してきた資産がまだ多くあることだ。円安になってその価値が減退しているとはいえ、マネーの力で良い投資を行うことで、日本に経済的利益を生み出すとともに世界に影響力を及ぼすことができる。そこで大事になるのは、投資先の価値を見いだす「目利き力」であり、多少のリスクがあっても決断をする強い意志である。別の言い方をすれば、それらの能力こそが、日本の国力自体を表すことになる。
この「資産運用特区」は、その国力の源泉となる資産運用の頭脳に外国勢力を積極的に入れるためのものである。私は、日本の資産運用の世界で競争が促進されることの意義は否定しない。問題は、日本の首相が日本の資産の運用に外国勢を入れる意図をどこに持っているかである。講演を聞く限り、ただ「外国の人に来てください」と言っているのにすぎず、日本の最後の強みかもしれない大きな資産を日本のためにどのように生かすのかという視点が見受けられない。
生き馬の目を抜く世界のマネーの世界で、一国の首相が「日本に来て日本の資産で儲けてください」と言えば、舌なめずりをする勢力も多くあるだろう。アベノミクスによる円安で日本のバーゲンセールを行い、次は残る虎の子の日本の資産を外国勢の利益のエサにするのであれば、それは「売国」と言わざるを得ない。かつて大韓帝国は、自国で満足に通貨を管理することができず、1904年の第一次日韓協約で日本の大蔵省から目賀田種太郎を財務顧問として受け入れ、それが後の日韓併合に繋がった。
こんな政治で、こんな首相でいいのか、私たちは真剣に考えなければならない。
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