私たちは城山三郎の『官僚たちの夏』という小説を読んで、上司や利権政治家、財界におもねることなく、ひたすら戦後復興期の国家のことを思って働く通産官僚の姿にあこがれて、通産省に入ったものです。今日はそのような熱い官僚の姿ではなく、民主党政権下の暑苦しい永田町周辺の光景です。
私が官僚時代に手掛けた構造改革特区は、特定の地域を区切って国の規制の例外を設けることで、民間の知恵と活力を生かそうというものです。たとえば県内の高萩市やつくば市や大子町では、これまでの学校法人ではなく民間の会社が通信制の高校を設置して、文部省の学習指導要領にとらわれない独特のカリキュラムの下で、多くの若い生徒たちが学んでいます。地域にとっては、スクーリング期間にたくさんの若者が町を訪れ活気が生まれるなどの効果が生まれております。ある学校は全国高校サッカー選手権にあと一歩で出場できるところにきたり、ある学校は黒字経営で地元自治体に税収をもたらしたりと、これまでの学校にないさまざまな成果もあげているのです。
ところが、このたび政府の構造改革特別区域推進本部の評価・調査委員会で、特区内の通信制の高校は、試験の採点なども特区の区域内で行わなければ認められない、という評価がなされました。この評価・調査委員会は本来、特区内での規制改革について成果を評価し、特段の問題が起きていない場合はその規制改革を全国展開していくためのもので、国が規制の上乗せをする場ではありません。通信制ですから、試験の採点などは遠隔地で行われることは当然のことです。これを特区内で限定して、ということになれば事業は成り立たなくなってしまいます。実際に学校教育法施行規則でも、通信制の高校が1ヶ所で試験や面接をしなければならないなどという規制はかけられておりません。特区内の通信制高校だけに規制の上乗せをしようとするのは、学校法人になって文部科学省の支配を受けるようなことをしない会社設立の学校を文部科学省はなくしたいからです。
聞くところによると、このような措置を決定した内閣官房の担当者は、文部科学省からの出向者であるとのこと。それでは文部科学省の意向しか通りません。私が内閣官房にいた時には、当時担当だった鴻池大臣のリーダーシップによって、ある規制の見直しはその規制の所管省の出身者には担当させませんでした。そういう人事を行うことで、各省の利益代弁を認めなかったのです。先日、私の所属する内閣委員会で、この構造改革特別区域法の期限を延長する法律改正を審議し成立させましたが、今やこれに応募する自治体は激減しているとのこと。内閣官房に応募して規制改革を求めても、応募先が規制担当省からの出向者では、何も進まないどころか、むしろ目をつけられていじめられる可能性もあるのでは、応募する気にもならないでしょう。
政治主導を唱えてはじまった私たちの政権も、人事や仕事の進め方を官僚組織に委ねることによって、「仏作って魂入れず」というものが多いように思われます。今回紹介した事例は一つの事例ですが、これに類する話はいくつも聞いております。「魂は細部に宿る」との言葉もあります。政治主導とは、小さなことの積み重ねの結果実現するものであり、マスコミの前で気張って発言することで実現するものではありません。もう手遅れかもしれませんが、真の政治主導とは何か、ということをもう一度考え直して、政権を立て直さなければなりません。
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