福島のぶゆきアーカイブ

衆議院議員 福島のぶゆきの活動記録です

日本はシリア情勢にどう対応するか

シリアのアサド政権が化学兵器を使用したということを理由として米国は軍事介入に向けた準備を着々と進めている。日本がこれに対してどう対応するか、安倍政権がここまで軽挙せず慎重な対応をとっていることは評価したいが、非常に悩ましい問題である。以前本ブログでも書いたが、私の父親がJICAのシニアボランティアとして2年間シリアのホムス(内戦の激戦地)に滞在し、私も当地を訪れた経験があること、実家に最近までシリア人の留学生がホームステイしていたことなどの関わりから、若干のコメントをしてみたい。
 まず、あまり日本では知られていないシリアという国であるが、かつてアラブからペルシャまで広大な領土を築いたセレウコス朝シリアという大帝国があったように、シリア人には自分たちがアラブ社会の中心だという意識が強く、オイルマネーで潤う湾岸諸国より自分たちは上なんだというプライドを持っている。中東戦争ゴラン高原を失い、国内には多くのパレスチナ人もいるシリアでは、パレスチナ問題の最前線にいる国である。長年米国の経済制裁を受けてきたシリアの国民の間には反米感情が非常に強くて、逆に先の大戦で米国と戦った日本は極めて尊敬されている。私自身の実感でも、私が訪問したことのある30カ国くらいの中で一番反米感情が強くて、親日感情も突出して高い国だと実感した。私の母などは、日本人というだけで市場の買い物をタダにしてもらったりしたと聞く。
 前大統領のハーフィズ・アサドは極度の独裁政治を行ったが、その息子のバッシャール・アサド現大統領はイギリスにも留学していた眼科医で、民主的価値観を持った知的な人物でもあると言われている。しかし、政治的経験の浅いバッシャールは、おそらくは本人にとっては不本意なのではないかと推察するが、結局国を統治するためには父親の独裁的体制を維持している。私の実感では、シリアの大使館員や役人たちは威張り腐った最低の人種が多いが、一般国民は他のアラブ諸国と比べても非常に穏やかで知的で文化水準の高い国であると感じている。
 さて、そのシリアの内戦状態に対して日本はどう対応するか。一部の「保守」と称する人の中には「米国の同盟国なんだから、米国を支持すべき」という単細胞的な論調もあるが、私は「シリアは日本とあまり関係ないからとりあえずアメリカに従おう」という頽廃的な判断ではなく、「日本にとってこれからも大事なシリアの内戦に適切に関与することで中東における日本の独自の立場を確立する足掛かりとする」という前向きの対応をすべきであると考える。なぜなら、中東地域は言うまでもなく日本のエネルギー供給にとって極めて重要な地域であるが、先にも述べたようにシリアはその中で日本で考えられている以上に重要な役割を担っている国で、しかも極めて親日的であること。さらに、日本はアジア地域では隣国との「歴史問題」が外交の足かせとなっているが、欧米諸国にとっての同じような「歴史問題」は中東でのパレスチナ問題であり、この地域でそれがない日本は欧米諸国より比較的フリーハンドで外交を行えるからである。
 仮に日本が米国の軍事介入に支持を与えたらどうなるか?たとえ米国が軍事介入をしたとしても、現在想定される規模の介入ではアサド政権が倒れる可能性はほとんどない。反アサド政権勢力も、「敵の敵は味方」という考えはあっても、必ずしも親米的な勢力は多くないであろう。シリアでの宗教的少数派であるアラウィー派のアサド政権を中途半端に弱体化すれば、隣国レバノンイラクも含めた地域の一層の混乱を招く可能性がある。すなわち、米国の軍事介入はこの地域の混乱を一層助長するだけで、まさにバッシャールの言うとおり世界の火薬庫に火をつけたことになってしまうかもしれないのだ。イスラエルと密接に関係する米国や旧宗主国のフランスの立場とまったく異なる日本が、このまま明らかに事態の好転を生まない米国の軍事介入に支持を表明すれば、世界の笑い物となるだけであろう。
 もっとも誰が使用するにせよ、化学兵器の使用に関しては断固たる反対を表明しなければならない。一方で、アサド政権をどうするかについては、現段階では日本は中立的であらざるを得ないのではないだろうか。中東諸国で信頼をされ、パレスチナ問題のしがらみの少ない日本は、この地域で独自の役割を果たす資格がある数少ない大国である。その立場を上手く活用して、周辺諸国も含め関係者が話し合うテーブルを設定するなど日本の存在感を示すことが出来れば、我が国のエネルギー問題などの国益にも資する外交が実現できるのではないだろうか。
 そうした意味で、私は日本は米国の軍事介入を支持すべきではない(反対もしない)と考える。ここでロシアに多少の恩を売っておけば、領土問題進展の糸口にもなるかもしれない。そして、単に中立的立場で逃げ回るのではなく、軍事的手段によらない何らかの積極的関与を示すことができれば、国際的な地位が低下しているとされる日本のプレゼンスが向上する絶好の機会となるのではないか。シリア問題は、日本の遠いところで起きている米国の問題なのではなく、日本外交の問題そのものなのである。-----