福島のぶゆきアーカイブ

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「霞が関文学」としての「社会保障制度改革国民会議報告書」を読み解く

霞が関文学」としての「社会保障制度改革国民会議報告書」を読み解く

 標題の原稿を『茨城県医師連盟だより』に掲載させていただきましたので、発行者の許可をいただき転載させていただきます。

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 9月30日安倍総理は予定通り来年4月から消費税を8%に増税することを決断した。野田政権で決定された消費税増税は「社会保障と税の一体改革」と銘打って始まったものであるから、増税の前提となる社会保障制度がいかなるものかをしっかりと見定めなければならない。消費税増税分を診療報酬に転嫁できない医療機関にとってみれば、受ける影響は甚大であるため尚更のことである。本稿では、8月6に出された「社会保障制度改革国民会議報告書」なる「霞が関文学」を筆者の霞が関勤務の経験から読解し、分析してみたい。

 まず冒頭から先制パンチが効いている。「福田・麻生政権時の社会保障国民会議以来の社会保障制度改革の流れを踏まえつつ」(傍点筆者)となっており、民主党政権で提起された最低保証年金制度の導入をはじめとする社会保障制度の抜本改革の流れを完全に否定している。同政権時の後期高齢者医療制度の導入が国民の反発を受けたことや、「消えた年金」の問題に代表される年金問題に対する国民の不安感が民主党への政権交代につながったとの反省はまったく伺えず、これまでの霞が関主導の政策決定を取り戻すということを高らかに宣言しているように思えてならない。

 この報告書で掲げられている、「高度経済成長期に確立した「1970年代モデル」から、超高齢化の進行、家族・地域の変容、非正規労働者の増加など環境の変化に対応した全世代型の「21世紀日本モデル」へ」などの8つの理念は大方同意ができる立派なものである。一方、その理念から導かれる基本的な考え方には、いきなり「社会保障の安定財源の確保と機能の充実の必要性や経済成長を上回る給付費の伸びを踏まえれば、国民負担の増加は不可避。国民負担について納得を得るために、同様の政策効果を最小の費用で実施できるよう、同時に徹底した給付の重点化、効率化が必要。」(傍線原文通り。以下同じ。)と書かれており、国民負担の増加(すなわち増税)の理解を得るために給付水準のカットを行うとしている。これこそ役人的・財務省的発想の典型である。現行の社会保障制度は、医療にせよ年金にせよ給付水準に対する不満や将来の安定性の見通しが立たないために保険料等の負担感が重く、このことが現行の社会保障制度に対する国民の不信感につながっている。これ以上給付水準をカットすれば、ますます国民負担増をお願いする納得性はなくなってしまうであろう。どの国民が、給付水準のカットを喜んで保険料や税金を納めるようになると言うのか?

 医療制度改革の方向性についても、興味深い記述がいくつかされている。「医療問題の日本的特徴」として、「日本の医療機関は、西欧等と異なり、私的所有が中心。政府が強制力をもって改革できない。」として、本来は公権力を行使して「上からの」システム改革をやりたいのだけど、それができない官僚組織のもどかしさを思わず吐露している。もっとも、政府が強制力をもって変えられないのは、西欧近代社会では当たり前のことだと思うのだが。その上、「日本の皆保険制度の良さを変えずに守り通すためには、医療そのものが変わらなければならない。」とかつての厚生省吉村局長の「医療費亡国論」的発想からの「上から目線」で締めくくっている。

 具体的には、「市場の力でもなく、データによる制御機構をもって医療ニーズと提供体制のマッチングを図るシステムの確立を要請する声が上がっている点にも留意しなければならない。」と記述されている。霞が関文学特有の主語がない、誰から声が上がっているかもわからない、「留意」という控えめの表現のこの一文にこそ、霞が関が志向する本音が語られている。また報告書には、唐突に「医療法人制度・社会福祉制度の見直し」として、「医療・介護サービスのネットワーク化を図るためには、競争より協調が必要であり、医療法人等が容易に再編・統合できるよう制度の見直しを行うことが重要。機能の分化・連携の推進に資するよう、法人間の合併や権利の移転等を速やかに行うことができる道を開くよう制度改正を検討する必要。」という項目が出てくる。これらのことを合わせて考えると、それぞれの医療機関の診療状況や経営状況をデータベース化し、診療報酬による誘導等によるアメと数値比較によるムチによって医療機関の再編を図り、給付の合理化を実現しようとする霞が関の意図が垣間見える。

 この報告書では「日本の社会保障は、社会保険方式が基本。」としながら、「公費の投入は低所得者の負担軽減等に充てるべき。」として、公費(税金)の投入には極めて否定的・限定的な方向性を示している。しかし、社会保障制度改革の議論の端緒は、まさに理念で高らかに謳っているように、高度経済成長期に確立した「1970年代モデル」の社会保険方式が限界を迎え、超高齢化の進行、家族・地域の変容、非正規労働者の増加など環境の変化に対応してある程度の公費によって支えざるを得ない「21世紀日本モデル」を確立しなければならないことだったのではないか。消費税は増税するが、社会保障制度における保険と公費負担の根本的な関係を改めることなく公費の投入を避け続け、医療をはじめとする給付のカットばかりを行う社会保障制度改革は、これまで繰り返してきた本質的な議論や政治的決断から逃げた霞が関の論理による弥縫策にすぎない。この報告書に官僚たちによって埋め込まれたさまざまな萌芽が今後どのように制度改革や診療報酬制度に反映されていくのか、きちんと注視していかなければならないし、政治の場で霞が関の論理を超えた本質的な議論が行われることを心から期待したい。

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