TPP特別委員会の理事予定者が「強行採決という形で実現する」と言って審議入りが揉めて、月曜日に開催された委員会の初日に安倍総理が「我が党は結党以来、強行採決をしようと考えてことはない」と言って審議が始まったTPP協定の審議。一昨日は、とうとう農水大臣までもが「強行採決」発言をして、昨日はその謝罪をするための委員会開催さえも「強行」するという、ありえない国会運営となっている。
国対副委員長として、若干の解説をしたい。民主制度である以上、最終的には物事は多数決で決めざるを得ないが、その一方で決める場の設定まで多数決で決めると、民主制度そのものが機能しなくなる。論理的には、会議をいつ開くか、どのように運営するかは多数決で決めらことも可能だが、そうなればたとえば少数派に発言の場を与えない、議論もせずにいきなり決定をするなどの多数派の横暴なことが可能となってしまう。それ故、委員会議事の運営を決める理事会は、与野党合意の上で進めるのが慣例だ。その合意がないままに、一方的に委員会の開催などの運営を決めることを「強行」という。
十分な審議を行った後に、時間...を稼ぐためにむやみに採決を遅らせるような行為に対しては(ときどき野党はしてしまうが)強行採決となる場合もある。それが、納得のいくものなのかどうかは、国民の皆さんの判断だ。今回の件では、与党は、大臣の謝罪と合わせて、今月28日の採決を目指してその前提となる24日の地方公聴会の日程の議決を議題に上げてきた。これを認めてしまうと、大臣に対して質疑できる日数は実質的にあと1,2日となる。このような大型の通商協定の場合には、これまで100時間以上の審議時間で行ってきたが、この臨時国会ではまだわずか2日。10時間程度にすぎない。通常国会と合わせても30時間程度だ。膨大なTPP協定の条文を審議するには、あまりにも少なすぎる時間だ。
政府・与党は、通常国会の審議での経験も踏まえて、TPP協定は審議をすればするほど答弁につまづいたり、賛成する国民が減ってくると考えている。だから、なるべく審議をしないで、多少強引にでも成立させたい。「のり弁」と揶揄されても、国民に知られたくない情報を引き出されたくない。それゆえ、冒頭のような委員会関係者の「強硬発言」につながっているのだ。
「もっと中身の議論をしろ」というご意見もちょうだいする。私たちももっと中身の議論はしたいし、そのための膨大な準備もしてきている。私自身も、政府の情報開示の在り方や輸入米価格調査の話だけではなく、政府の経済効果の試算の問題点や、実際に交渉で日本は何の獲得をめざし実現させたのか、など議論したいことは山ほどある。しかし、審議方法のルールや相場観が形成されなければ、多数派の横暴で一方的に日程が決められてしまう、というのが今の国会の現状なのだ。
これは日本の国会特有の問題かというと、私が経験してきたいくつかのマルチの国際会議でも同じようなものである。会期が5日あれば、前半の3日間はずっと議事の方法や議題の適否の入り口で延々と議論することが多い。いずれにしても民主制度は手間がかかるものなのだ。私たちは、必要な審議時間を確保してTPPの中身について充実した審議を行うために戦っている、ということをぜひご理解いただきたい。
(記事に埋め込まれている写真に私も写っているので、見つけてみてください)