〇最近、キャンペーンのようにブラック霞ヶ関の原因が国会対応にあるような報道が出されるが、私の経験からすると的外れな指摘であり、むしろ国会を形骸化させようとする別の意図を感じる。
そもそも国会対応は、憲法によって国会が国権の最高機関であり、議院内閣制であることを定めている以上、霞ヶ関の業務の本務である。私が霞ヶ関にいたころは、国会対応に当たらなければならない部署は通産省の中でも一部であり、現在のコロナ対応をしているようなところは戦場のような状況になるが、それ以外の大部分は大きな負担になるようなことはなかった。
【政治主導のための1999年の法改正で、官僚が政府委員として答弁する制度が廃止され、原則、閣僚らが答弁する仕組みに変わった。閣僚答弁は政府の方針と扱われ議事録にも残る。質問取りは官僚が正確な答弁を用意するのに必要な段取りとなった】
問題の本質は、ここにある。政治主導の流れの中で、答弁者が原則として大臣、副大臣、政務官の政治家となり、政治家同士のやり取りをする国会になった(そもそも、当たり前のことなのだが)。このことによって、大して勉強していない国会議員が後々面倒なことになる答弁をすると困るため、役所の幹部は答弁を作成する若手を細かく詰める(役所用語であらゆる質疑を想定して論理矛盾ない答弁を作ること)ようになった。上司の「詰め」に対応するために、若手は質問取りに行って質疑者の質問の意図を細かく聞くようになり、業務負担が増大しているのだ。
クイズのような政治家の基礎的知識を問う下らない質疑をする野党議員は論外だが、事実確認を問うような質問はほとんどの野党議員は事前にきちんと通告をしている。正確に答えてもらわなければ一番問いたい政治的に大事な質疑にたどり着かないから、当然のことだ。私も、必ずそうしていた。私が知る限り、わざと質問通告をギリギリまで遅らせたり、休日の日曜日に通告を出すのは、某K元首相くらいだった。そのような悪質の議員がいれば、議院運営委員会で名指しするようにすればよい。
一方、答弁者に政治家として答えたもらいたい質問事項は、答弁の流れでその場で質問の仕方を決めるから通告なんてできない。「答えたくはないけど答えざるを得ない」といった質問の仕方こそが、その議員の技量となるからだ。それを恐れる役所は、質問通告書をFAXで送って「もういいだろう」と議員会館を後にしても、若手からしつこく泣きそうになりながら「質問レクに行かせてくれませんでしょうか」と言ってくるのだ。
国民民主党の玉木代表は
【「文書で詳しい質問通告をした。電話で問い合わせ可能とした」として対面での接触を求めなかったと日本経済新聞の取材に答えた】
といい子ちゃんぶっているが、そんなのは私もずっとやっていた。それでも、役所からは深夜まで電話がかかってきつづけるから、私の政策秘書も可哀そうなことに質疑の前夜はいつも徹夜だった。
つまり、問題の本質は政治家同士が議論するのが当然の国会で、政府にいる政治家がまともに答弁できないことにある。冒頭に「国会対応は霞ヶ関の業務の本務」と書いたが、それは立法や行政監視に必要な情報の提供などのことであって、国会審議そのものはまさに国会議員の仕事である。私がちょっと前に見た衆議院の内閣委員会でも、質疑の意味することすら理解できていない某副大臣が、質疑と関係ない答弁書を読み上げてしまって失笑を買い、議事が止まってしまう場面を目撃した。
こうした問題は、質問通告をオンラインにしたところで解決する問題ではない。国会でやるべきことは何なのか、政治家同士で議論する時のルールはどのようなものであるべきか、そもそも答弁に立つ政府側の政治家にそのような能力を持ち合わせた人物を当てているのか、そうした本質的なことを解決しなければならない。これらは、すべて与野党とりわけ与党側の政治の問題なのである。