〇昨日の衆議院の憲法審査会で、有志の会、日本維新の会、国民民主党の3党会派でとりまとめた、緊急時における国会議員の任期延長についての憲法改正条文案を提示いたしました。この条文案は、北神議員が作成した有志の会の案をベースにしたものです。
私たちは緊急事態においても、国会議員がいないからと言って政府が政令で国民の権利を制限したり、予算を自由に決めたりする超法規的措置は取るべきではないと考えます。また、政府が法令の範囲内で行うことについても、それが妥当なのかをチェックする機能も必要だと考えます。立憲主義を強化する観点から、この条文案を提示したのです。一部の早とちりをする方は、緊急政令で国民の権利を制限するのじゃないかと勘違いしますが、文末に条文案を紹介いたしますので、ぜひご覧になっていただければと思います。
参議院の緊急集会が規定されているから、そんなもの必要ないという批判もあるでしょう。しかし、現行憲法上の参議院の緊急集会はどこまでのことを緊急集会で対応できるのかが明確ではなく、学説も分かれております。私は、緊急時であっても、補正予算案の編成や国民の権利を制限するような立法は、やはり議院内閣制の国では衆議院において議決することが必要であると考えます。
私がかつて原子力行政を担当していた時、緊急時の法制の必要性が一部から出されており私もその必要性を感じていましたが、「放射能が外に出るような事故は日本では起こらない」という安全神話によってそのような法律は作られませんでした。しかし、実際に東海村JCO事故が起きて放射能が外部に出た時、法制度がないため誰が事故対応に当たるのかも明確でなく、超法規的措置を連発せざるを得ないことを体験しました。その反省を踏まえて、原子力災害対策特別措置法の立法作業に携わりましたが、結局約10年後の東日本大震災の時には十分に生かされることはありませんでした。
その12年前の東日本大震災の時は、統一地方選挙を間近に控えていました。東北3県ばかりか、私の地元の自治体でも、とても選挙をやれるような状況ではありませんでした。しかし、任期満了となってしまっては、条例を通したり予算案の議決をすることはできません。当時の袴塚水戸市議会議長から深刻な相談を受けた私は、任期満了が迫るごく短時間で当時与党の民主党と政府の調整に走り回り、急遽法律を国会で通して議員任期を延長したのです。
国会議員の任期は憲法45条、46条で規定されていますから、これを改正しなければ、東日本大震災の時のような対応はできません。選挙ができない事態なのに、憲法改正の国民投票などはできませんから、もしこのような事態になれば超法規的対応を取らざるを得なくなってしまうでしょう。そうしないためにも、あらかじめ憲法に規定することが、立憲主義を強化することになるのです。
もちろん、この条文案にもいくつかの解決しなければならない論点は残されています。国会の議決は両院の3分の2以上の賛成の要件でよいのか、裁判所など別の権力の関与はなくてもいいのか、など。たとえ一部の議員から「サル」と揶揄されようが、そうした法的議論をこれから積み重ねる必要があると考えます。私たちは、単に改憲対護憲のような不毛なイデオロギー対立を繰り返すのではなく、立憲主義をより強固なものにする観点から充実した議論を積み重ね、最終的に国民の皆さんのご判断を仰ぎたいと思います。そして、こうした私たちの行動が、戦後の日本の政治体制を根本から変えていくことに繋がるものと考えています。
第九十五条の二 我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害、感染症の大規模なまん延その他これらに匹敵する緊急事態により、選挙の一体性が害されるほどの広範な地域において衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の適正な実施が七十日を超えて困難であることが明らかとなつたときは、国会の議決により、当該総選挙又は通常選挙に係る衆議院議員又は参議院議員の任期は、これらの選挙を適正に実施することができるまでの間において当該国会の議決で定める期間、延長される。この場合において、その延長の期間は、六月を超えることができない。更に延長されるときも、同様とする。
② 前項の国会の議決は、同項に規定する選挙の適正な実施が困難である旨の内閣の発議を受けて、各議院の出席議員の三分の二以上の多数によることを必要とする。
③ 第一項の国会の議決をする場合において、衆議院議員又は参議院議員の任期が解散又は任期満了により既に終了しているときは、同項の国会の議決をするため必要な限度において、当該任期は終了していないものとみなす。この場合において、同項の国会の議決があつたときは、当該任期は同項の規定により延長される。
④ 第一項の国会の議決があつたときは、第五十四条第一項の規定中総選挙の期日に係る部分は、適用しない。
⑤ 衆議院議員又は参議院議員の任期が延長されている間に、その総選挙又は通常選挙を適正に実施することができると認めるに至つたときは、国会は、直ちに、その議決により当該任期の終了の期日を定めなければならない。
〔参議院の緊急集会〕
第五十四条 衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない。② 衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。
③ 前項に規定する場合において、国に緊急の必要があるときは、内閣は、参議院の緊急集会を求めることができる。衆議院議員の任期満了後に総選挙が行われる場合において、国に緊急の必要があるときも、同様とする。
④ 前項の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであつて、次の国会開会の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失ふ。