〇すごい本が出た。旧知の船橋洋一さんの『宿命の子 安倍晋三政権クロニクル』。
【私はこの本で、第2次安倍政権の権力中枢の政策決定過程の舞台裏のドラマを検証することを試みた。調査報道と銘打った次第である】
とあるが、ここまで政権運営の舞台裏を明らかにした「調査報道」は、これまで本邦にはなかったのではないか。こうした書をものにすることができたのも、船橋氏の卓越したジャーナリストとしての能力とともに、安倍氏の不慮による急逝という事情にもよるだろう。
森友学園問題の項目では、もちろん私も登場している。
【2017年2月17日、民進党の福島伸享衆議院議員(茨城県)が衆院予算員会で森友学園のホームページをパネルに示しながら、安倍に質問した】
ここで注目すべきは、森友学園問題を火消ししようとする今井尚哉秘書官の動きだ。
【今井は、その頃、渡邊恒雄に「ちょっと来てくれ」と呼ばれたので赴くと、開口一番、「ところで安倍晋三と安倍昭恵というのはどういう関係なんだ」と聞かれた。
「え、今日はその話ですか」
・・・
離婚も辞せずの覚悟でやってほしい、と安倍に進言するのが政務秘書官の仕事だろう、とナベツネは物騒なことを言った。
「そんなことできるわけなじゃないですか。私はアッキーも守らなきゃいけないんですから」
「このままじゃ安倍政権、終わるぞ」
今井は、この話を安倍には伝えなかった。妻を攻撃されると安倍は人が違ったようになる】
ナベツネは、財務省と太いパイプがある。私は財務官僚からの内部告発でこの件を知り国会で取り上げたのだが、一方のナベツネもおそらくこの問題の本質を財務省から聞いていて、安倍政権が終わる話だとすぐに悟ったのだろう。巷の安倍親衛隊売文業者による森友学園問題陰謀論とは全く違う迫真感がある。
その後、2017年の衆議院選挙で、私は落選する。事前の調査では、横一線で競っている状況にあり、少なくとも比例復活は確実と思われたが、解散後すぐに安倍首相自ら相手候補の応援に訪れ、菅官房長官や人気者の小泉進次郎氏などが入れ代わり立ち代わり選挙区に来て、わずかの差で比例復活も適わなかった。この本から垣間見える今井氏の持っている情報からみると、私が誰からどのような情報を得ていて、国会に戻ってこればどのような質疑をするのかは今井氏は想定していただろう。そして、それが安倍内閣が倒れることに繋がることを確信して、こうした対応をとったのだろう。ちなみに、今井氏と私は、かつて橋本内閣の時に同じチームで働いていて、マスコミ操作のやり方や情報収集の仕方は今井氏から学んでいる。
私が落選後に、森友問題関連の公文書改ざんが明らかとなる。これも、私の質疑がきっかけとなって始まったことは、この公文書にも書かれている。安倍首相は、こうした財務省の対応は、財務省が自分を追い落とすためではないかと疑いを持つことが、この本では明らかとされている。
【「財務官僚は、私に忖度して(書き換えを)やっているんじゃない。自分たちの組織を守ることだけを考えてやっているんだ。彼らは私のことなどまったく気にしていない。こちらは被害者のようなものだ。何が忖度だ」「あんなの改竄なんかしないで、僕の名前と昭恵の名前を残しておいてくれたほうがよっぽどよかった。よけいなことをやってくれたね。自分を嵌めようとしてやったんじゃないのか」「昭恵に嫌疑がかかるのはたまったもんじゃない。財務省に全部、しりぬぐいさせろ」
今井に話し出すと止まらない。
もう、すっかり財務省陰謀論の虜になっている】
【今井は言った。・・・
「悪いことをした役人を守ってくれとは言っていません。だが、彼らだって一生懸命やっているんです。連日徹夜して、そして自殺者まで出してしまった。彼らはあなたの部下なんですよ。総理として部下を守るのか、それとも部下陰謀説まで唱えさせて、それでご夫人を守るのか、一国の総理としてどっちなんですか」
・・・
今井は安倍に向かって、総理として昭恵の「道義的責任」を認めるように改めて勧めた。しかし、安倍は「昭恵は悪いことは一つもしていないのだから、道義的責任なんでないよ」と激した。
今井はダメを押すかのように言った。
「奥様を守るあなたよりも、部下を守るあなたを国民は期待していると僕は思いますよ」
安倍は聞く耳を持たなかった。
「総理、総理が霞が関を守れないというのであれば、私はとてもお仕えできません」
安倍は異物がのどにつっかえたかのように黙ってしまった】
ここに見られるのは、夫人をかばうあまり正常な判断能力を失っているこの国の最高権力者の狂乱の姿と、問題の本質を見極めそれを諫める側近の姿。政治に携わる者として、これほど学ばされることはない。
こんなエピソードも挿入されている。
【その年の夏、川口湖畔の別荘で夏休みを兼ねた安倍家恒例の「夏合宿」に今井は招かれた。バーベキューでわいわいがやがややっているとき、一瞬だけ、安倍の母の洋子と2人だけになった。
「今井さんのおかげです」
洋子はそう言って、今井に深々と頭を下げた。
今井はいささか報われた気がした】
やはり安倍首相の母も同じ本質を見極めていたのだ。
こうしたエピソードや行間から、安倍政権の本質的な姿が伺える。ただ、この本には書かれていないことも多い。「死人に口なし」とも言うし、歴史は生き残った者の口述によって作られていく。当然、この本もそうした観点から読まれるべきものであろう。
本の帯には「「戦後」を終わらせるため、彼は戻って来た。」と書いてある。私は、安倍政権は「戦後」を終わらせたのではなく、戦後そのものであったと考えている。そして、その「戦後」を終わらせることこそが、私の政治家としての使命だと思っている。こうした私の安倍政権への評価も、YouTubeで述べているので、ぜひご覧いただきたい。