〇イギリスに来て二日目。時差は日本と8時間あるため、朝の5時頃(日本時間13時)には目覚めてしまう。夜が明けて散歩してみると、ホテルのそばの公園を横切ったところにバッキンガム宮殿があった。さらにそこから10分程度歩くと英国国会議事堂であるビッグベンと官庁街。後ろからパカパカ音がするので振り返ってみたら、騎兵隊がやってきて朝礼をやっていた。
午前中は、7月の総選挙まで約20年間保守党の下院議員を務め、キャメロン内閣、メイ内閣、ボリス・ジョンソン内閣の下で数々の大臣を歴任し、英日議連の会長も務めた知日派のグレッグ・クラーク氏と意見交換。氏はまだ56歳ながら、労働党政権への交代が予測される中で政治家としてやりきったとして引退。「労働党のスターマー政権は野党時代に慎重に行動し十分な準備を行って、国会でも圧倒的多数を握っているので、下院任期の5年間はイギリス政界は安定期に入るだろう」と、昨晩の林肇駐英大使の見立てとは異なり、ライバルに対しても冷静に評価していた。
私から、「二大政党制の本家である英国でも、7月の総選挙では第三極の自由民主党が躍進したり、極右ポピュリスト政党の改革党(Reform Party)が20%も得票して議席を得たり、大きな変化が始まっているのではないか」と問うたところ、「確かに今回の保守党の惨敗は改革党に保守党票が奪われたことによる。保守党内には、両党の得票を合わせると労働党を上回るため、改革党と一緒になろうという動きがあるがこれは正しくない。そうなれば、中道票が保守党を離れる。私も、保守党から離れる」と、漸進的な変化を求める英国の保守本流らしい立派な答え。「イギリスの政治の伝統では、いずれ保守党に政権が戻ってくる」と楽観的な見方を語っていたが、決して自信のある語り方ではなかった。
午後には、政党の政治資金を監督する選挙委員会(Electoral Commision)を訪問。この委員会は、1990年代の労働党政権時に、タバコの広告禁止を法制化しようとした時に、香港の事業家から献金を受けて法律に抜け穴を作ろうとしたスキャンダルをきっかけに、2000年に設立された。午前のクラーク氏からも、現在大企業は会社法で企業献金をする場合には株主の決議がいるため英国では企業献金はほとんど存在しないと聞いていたので、この委員会の役割の多くは、外国人からの献金の有無のチェックと選挙時の支出のチェック(英国では候補者は選挙活動に2万ポンド(約400万円)しか使えず、政党も候補者のために政治資金を使えない)、政治資金や選挙制度についての政策提言である。
私からは、この委員会がどのようなメンバーで構成されているのかという組織体制についてや、制度設計時の委員会の関与のあり方、法令違反の際の制裁措置の決定プロセスなどについて質問したが、その答えの詳細はここでは省く。ただ、英国でも政治家の政治資金問題への不信は強く、一方で選挙委員会への国民の期待が強いことを受けた強烈な自負心を持っていて、さらに強い権限と適正な法規制の導入を求めてバリバリはたらいていることが窺えた。その一番の根幹は、政権からの独立性だ。日本の一部の識者が提言するような、政権の下にある行政府に第三者機関を置くなどということは論外のようだ。
先の通常国会で成立した政治資金規正法改正法案には、附則や附帯決議に多くの検討事項を規定しており、その対応のためにの法案の提出がやがて求められる。その一つのキーポイントは、第三者機関の設置だ。その今後の検討に向けて、大きなヒントをいただいた有意義な議論だった。