福島のぶゆきアーカイブ

衆議院議員 福島のぶゆきの活動記録です

映画『国宝』

〇評判の良い映画『国宝』を観た。長崎のヤクザの息子から歌舞伎界入りした少年と歌舞伎の大御所の息子として生まれた少年が、さまざまな歌舞伎界の因襲の中で役者として波乱の人生と共に成長していく物語。掛け値なしに歴史的な傑作だった。芸とは何か、美とは何かの本質に迫りながら、エンターテインメントとしても両立している奇跡的な作品だ。ちょうど草莽塾で講演した後に観たのだが、そこで三島由紀夫の言葉を紹介しながら話した「正しいことを求める政治ではなく美しいことを求める政治」ということとも被った。三島が生きていたら、喜んだことだろう。

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 この映画を語り始めると、いろいろな観方ができて語りつくせなくなるのだが、まず主演の吉沢亮とそのコンビとなる横浜流星が素晴らしい。この当世の人気俳優見たさに映画館に足を運んで売る観客も多いだろうが、1年以上歌舞伎の舞台稽古を積んで撮影した二人の演技は鬼気迫るもので圧巻だ。NHK大河ドラマで見せる現代風の軽い演技を見て、彼らを見誤っていた。大御所の役者を渡辺謙が演じていて当然上手いのだが、この映画を通じてその渡辺謙が日本の将来の映画界を吉沢と横浜に託しているようにも見えた。


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 監督の李相日の撮るこの映画は、ワンカット・ワンカットに意味が込められていて、それを観ているだけで味わい深いのだが、在日コリアン出身として古い歌舞伎界と日本をシンクロさせながら、その中に生きる絶対的な美というものを求めようとしていると考えるのは穿ちすぎだろうか。渡辺謙の相方には、歌舞伎の大御所の家に生まれた寺島しのぶを付けているというのも、憎い配役だ。

 その寺島の弟はつい先ごろ尾上菊五郎の大名跡を継ぎ、襲名披露の公演が5月、6月と2カ月にわたって木挽町の歌舞伎座で行われた。私も、足を運んできた。菅原伝綬手習鑑の寺子屋は、いつ見ても胸に迫るものがあるが、8代目菊五郎は達者な芸を見せてくれた。その息子で同時に襲名した菊之助は、観る者をハラハラさせる頼りない芸を見せてくれた。映画の興行的には、このタイミングを図ったものなのだろうが、映画に描かれている血の繋がりの見せる人間の複雑さとリアルな血の繋がりの芸の両方を同時期に見られることも、この映画を奇跡的なものとしているように思える。

 日本は、あまりにも美しく、そして複雑だ。