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小保方氏の論文の不正問題をさも正義ぶって新聞は報じているが、まず自分たちの足元を見たほうが良いかもしれない。
野田政権時代から消費税増税を強硬に主張してきた読売新聞は、新年度になって増税後に1面の肩で特集記事を連載しているが、事実誤認や偽装の類のものが多く、小保方氏の論文よりタチが悪い。4月1日の記事には、「地方分も含めた増収分5・0兆円のうち、後期高齢者医療の拡充や子育て支援の強化など「社会保障の充実」に回るのはあわせて5000億円に過ぎない。3兆円は基礎年金の国庫負担の財源不足穴埋めに、1・3兆円は高齢化の進展による医療・介護費用の自然増に、それぞれ消えていく」とされているが、「社会保障の充実」以外は一般会計からであるから、消費税増税の財源が直接当てられているわけではない。「それぞれ消えていく」という表現で読者にはさも消費税増税分が社会保障に使われているようにイメージをさせながら誤魔化しているのであろうが、これは「偽装」である 。
4月2日の記事には、「これまで景気のけん引役となってきた輸出には黄信号がともる」としてアベノミクスでさも輸出が景気を引っ張っているように書いてあるが、GDP統計を見ると輸出が景気を引っ張ってきたのは昨年の4~6月期までで、7~9月期にはマイナスの寄与度にすらなっている。日本の産業構造は累次の円高を乗り越えてきて、もはや円安にして輸出が景気を引っ張る構造とはなっていないのだ。これは「事実誤認」に当たるだろう。
特集最終回の4月3日の記事では「前回1997年4月の消費増税後、当時の橋本内閣は財政構造改革を進め、公共事業を絞った」とあるがこれもデタラメで、財政構造改革を進めようとしたのは97年の増税以前のことであり、97年の4月以降橋本政権は何度かに分けて財政支出を伴う経済対策を実行した。ただし、当時絶大な力を持っていた大蔵省から金融部門を分離する省庁再編を成し遂げた橋本総理に対して、大蔵省は小出し予算による「戦力の逐次投入」しかやらせなかったため、これらの経済対策は不発に終わったことを、当時通産省の大臣官房にいた私は鮮明に記憶している。これも、「事実誤認」である。
もっとひどいのは、政治面にある「脱原発を問う」という連載の4月3日の記事で、
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東京電力福島第一原子力発電所事故の後、日米関係は一時ギクシャクした。民主党政権が「2030年代に原発稼働ゼロ」を打ち出したからだ。
12年9月、野田内閣の大串博志内閣府政務官がワシントンを訪れ、政権の方針を説明すると、米国家安全保障会議(NSC)のフロマン大統領副補佐官はまくしたてた。
「プルトニウム処分への明確な道筋がないまま蓄積を続けることは核不拡散、核セキュリティーの観点から疑念を呼び起こす。包括事前同意も見直しの必要が生じるかもしれない」
フロマン氏の指摘は、原発を稼働させないなら、プルトニウムやウランを持つ必要はないはずだ、ということだった。
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とあり、フロマン氏の言葉を引用しながら「原発を再稼働させないなら、プルトニウムやウランを持つ必要はないはずだ」と米国の立場を勝手に忖度しているが、これはまさに「妄想」の類である。米国をはじめとする多くの国が核燃料サイクル路線から撤退をしている中で、ほとんど稼働していないもんじゅや、トラブル続きでいつまでたっても稼働しない六ヶ所の再処理施設に頼る日本の原子力政策そのものに対する疑念を言っているのであり、このような問題意識がオバマ政権にあるからこそ、つい先日我が国は東海村にある実験用のプルトニウムを返還させられたのである。それをさも米国が原発の再稼働を要求しているかのように報道するのは、「虎の威を借りた詐欺」と言われても仕方ないだろう。
続く4月5日の同じ特集では、「孤立の規制委危惧」として、民主党政権時代に原子力規制委員会を独立性の強い国家行政組織法第三条に基づく組織にした弊害をつらつらと書き連ねている。かつての資源エネルギー庁の下にあった原子力規制がいかにいい加減なものであったことかを知る身としては、独立性・専門性の高い組織で原子力安全規制を行うのは当然であると思うし、記事中にもあるようにこのような組織にすべしと主張したのは塩崎恭久先生をはじめとする当時野党であった自民党だ。私は、さすがに自民党の中にも良心をもってしっかりと政策を考える先生方もいるものだ、と心から敬意を示し与党内でも軌を一にした主張をしたものだ。
ところが読売新聞はこれが気に入らないようで、電力会社が十分なデータを出せないことによる審査の遅れや合議制の形骸化というものを原子力規制委員会の問題としているようであるが、必要なデータを妥協することなく出させるのは規制機関の責務であるし、それぞれの委員が専門性をもって判断していることが「合議制の形骸化」というのは理解ができない。とにかくケチをつけたいのだが、説得力のある具体的なものがないため、ここでもやはり米国のメザーブ氏の発言を引用して、忖度をしている。
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独立性の強さを危ぶむ声は、海外からも聞かれる。昨年春、来日したリチャード・メザーブ米原子力規制委員会(NRC※)元委員長は、日本の規制委委員に懸念を伝えた。
「あらゆる利害関係者からのインプットが必要だ」
メザーブ氏は田中委員長が独立性を盾に国会議員や原発立地自治体の首長との面会になかなか応じていないことについて、規制を強化しようとするあまり、電力会社などとのコミュニケーション不足に陥ることはかえって危険――と指摘したのだった。
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これを読む限り、メザーブ氏が国会議員や原発立地自治体の首長と面会に応じろと言っているとは思えない。JCO事故の後にかなりNRCがどのような組織で、どのような規制をしているか研究したが、NRCは国会議員や自治体の首長のような政治と関わることはありえない。ここで言っている利害関係者(おそらく英語ではstakeholderと言っているであろう)とは、規制をする側(NRC)、される側(発電事業者)、専門家などのことであるはずで、「-と指摘したのだった」と書いているのは、読売新聞側の勝手な解釈、「妄想」にすぎない。
読売新聞には、宗主国のアメリカ様からのご宣託があれば日本国民を納得させられるという考えがあるのかもしれない。4月6日も1面にTPPの推進や河野談話の継承を主張するアーミテージ元国務副長官の論文を掲載しているが、要は「日本は敗戦国としておとなしくアメリカに付いてきなさい」と言っているだけだ。事実に基づく議論を展開せずに、事実を捻じ曲げ、結論に合う事実がなければ外国人の発言を引用して結論に導こうとする手法は、ジャーナリズムの名に値しないものであろう。
「「10%」判断政局に影響」とタイトルを打った4月3日の連載では、さりげなく「予定通り引き上げる場合は、軽減税率導入の有無も決めなければならない。税率が20%前後の欧州各国は食料品や新聞、書籍などに軽減税率を適用している」としている。社会保障のための増税と偽装するのを助け、一方では「新聞への軽減税率を導入しないと政局を起こすぞ」と脅迫をする。かつて自由民権運動崩れの壮士などが多かった新聞記者は「羽織ゴロツキ」と言われていたが、これでは何ら変わりはない。小保方氏の論文問題など可愛いものだろう。新聞がそれぞれの主張をすることは自由だ。しかし、その主張の材料となる事実を誤認したり、偽装するのは許されない。安倍総理を支えるふりをし、さも保守論陣ぽいふりをしながら、米国の虎の威を借り、日本が自立しようとすることを封じ、ちゃっかりと自らへの軽減税率の適応は主張する、こういうメディアをきちんと国民が見極めるところから、真の「戦後レジームからの脱却」が実現するのであろう。
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