○「国会は一体何をやっているのか」とお怒りの方も多いだろう。
私が役所にいたころの感覚からすれば、法案の本文に誤字脱字があることは考えられない。そうならないように、内閣法制局で複数の人で何回も読み合わせをする。(そうは言っても、数年に1回はあって、そうなると省を挙げて国会にお詫びに回る。かく言う私も一度間違えたことがあるが、附則の経過措置の条文なのですでに効力はなく、そのままにしてある。)
法案の本文に誤字脱字などのミスがある法案は、場合によっては法的効果に影響を与えることもあるから、ちゃんとしたものにして提出し直すまで野党が審議に応じないことには、正当性があるだろう。法案の条文というのは、たとえば「その他」と「その他の」で法的な意味が違うように、一文字でも違えば決定的に変わる時がある。それ故、一字一句の正確性は法案の命だ。本来、国会では逐条で厳密な法案審査をすべきなのだ。
一方、法案とセットになって冊子にされる要綱(法案を要約したもの)や新旧対照表(改正部分を分かりやすく示したもの)、参照条文などは、法的効果に影響を与えるものではないため、内閣法制局でも読み合わせなどは行わない。あまりにも重大なミスなら問題だが、誤字脱字程度のことで政党や国会議員が騒ぎ立てるような問題ではないだろう。
野党は、国会審議で何を大事にしているのかが国民に伝わっていないから、「また審議拒否だ」「春休みか」などと批判される。単なる「役人イジメ」や「ミスの追及」ではないものと信じたい。何が問題の要点なのか、国民にわかるような対応をすべきだ。